心理学関連書籍レビューサイト

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進化心理学入門

著者:

ジョン・H. カートライト (著), John H. Cartwright (原著), 鈴木 光太郎 (翻訳), 河野 和明 (翻訳)

 

目次:

第1章 自然淘汰と適応
第2章 2つの性による繁殖
第3章 性淘汰
第4章 人間の性を解明する
第5章 心の原型--適応反応としての恐怖と不安
第6章 心の病を進化から説明する
第7章 脳の大きさの進化
第8章 知能の進化
訳者あとがき
用語解説
文献/索引

 

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行動の基礎

著者:

小野 浩一 (著)

 

目次

第1部 行動についての基礎知識
 1.序論
  1-1 行動分析学のあらまし
  1-2 行動についての考え方

 2.人間は生体である
  2-1 生体の行動
  2-2 動物との連続性
  2-3 社会的存在

 3.行動は身体の変化である
  3-1 身体器官
  3-2 身体で生じていること―3つの事象レベル
  3-3 「こころ」のありか
  3-4 心理学の対象としての私的出来事

 4.身体変化の原因は環境にある
  4-1 内的原因か環境か
  4-2 なぜ原因を環境に求めるのか
  4-3 身体変化は生体全体の連鎖的出来事である

 5.3種類の環境変化がある
  5-1 生体の状態を変える環境変化
  5-2 行動のきっかけとなる環境変化
  5-3 行動の後に生じる環境変化

 6.2種類の行動がある
  6-1 レスポンデント行動とオペラント行動
  6-2 2種類の行動の起源と生物学的制約
  6-3 レスポンデント行動とオペラント行動の具体例

第2部 レスポンデント行動
 7.レスポンデント条件づけ
  7-1 レスポンデント行動の学習はどのようにして起きるか
  7-2 パブロフの条件反射
  7-3 レスポンデント条件づけの決定因
  7-4 情動反応の条件づけ

 8.レスポンデント条件づけの諸現象
  8-1 保持と消去
  8-2 般化と弁別
  8-3 複合刺激によるレスポンデント条件づけ

 9.レスポンデント条件づけの新しい考え方
  9-1 反応がなくてもレスポンデント条件づけは起きる
  9-2 対提示の反復がなくても条件づけは起きる
  9-3 すべての刺激がCSになるわけではない
  9-4 レスポンデント条件づけの適用範囲の拡大

第3部 オペラント行動
 10.オペラント条件づけ
  10-1 オペラント行動の学習はどのようにして起きるか
  10-2 オペラント条件づけの初期の研究
  10-3 行動随伴性

 11.行動の獲得と維持、消去
  11-1 新しい行動の獲得―シェイピング
  11-2 行動の維持―基本的強化スケジュール
  11-3 消去

 12.複雑な強化スケジュール
  12-1 オペラントクラスと行動次元
  12-2 分化強化―結果による選択
  12-3 複合強化スケジュール
  12-4 行動の連鎖化

 13.負の強化―逃避行動と回避行動
  13-1 負の強化に関する古典的研究
  13-2 逃避条件づけの諸現象
  13-3 回避条件づけとその理論

 14.弱化
  14-1 正の弱化
  14-2 負の弱化
  14-3 罰的方法の使用に関する諸問題

 15.先行刺激によるオペラント行動の制御
  15-1 刺激性制御の基礎
  15-2 刺激性制御の諸現象
  15-3 高次の刺激性制御

 16.言語行動
  16-1 言語行動の基本的特徴
  16-2 言語行動の獲得
  16-3 言葉の「意味」と「理解」
  16-4 日常言語行動の特徴
  16-5 言語刺激による行動の制御

第4部 オペラント行動研究の展開
 17.選択行動
  17-1 並立スケジュールによる選択行動の研究
  17-2 並立連鎖スケジュールによる選択行動の研究

 18.迷信行動
  18-1 行動に依存しない随伴性のもとでの迷信行動
  18-2 行動に依存する随伴性のもとでの迷信行動
  18-3 人間社会と迷信行動

 19.社会的行動
  19-1 社会的随伴性
  19-2 模倣行動
  19-3 協力行動と競争行動
  19-4 行動における個体差

 20.研究と実践の統合
  20-1 応用行動分析学
  20-2 単一被験体法による研究デザイン

図表出典
引用文献一覧
索引

 

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認知行動療法実践ガイド:基礎から応用まで 第2版 -ジュディス・ベックの認知行動療法テキスト‐

著者:

ジュディス・S・ベック (著), 伊藤 絵美 (翻訳), 神村 栄一 (翻訳), 藤澤 大介 (翻訳)

 

目次:

第1章 認知行動療法入門

第2章 治療の流れ

第3章 認知的概念化

第4章 インテークセッション

第5章 初回セッションの構造

第6章 行動活性化

第7章 第2セッション以降:面接の構造とその進め方

第8章 治療セッションを構造化する上での諸問題

第9章 自動思考を把握する

第10章 感情を把握する

第11章 自動思考を検討する

第12章 自動思考に対応する

第13章 媒介信念をとらえて変容する

第14章 中核信念をとらえ変容する

第15章 その他の認知技法と行動技法

第16章 イメージ技法

第17章 ホームワーク

第18章 終結と再発予防

第19章 治療計画

第20章 治療上の問題

第21章 認知行動療法家としての進歩

付録A 認知行動療法ケース報告書
付録B 認知行動療法のリソース
付録C 認知療法尺度

 

 認知療法創始者のアーロン・ベックの娘、ジュディス・ベックによる認知行動療法の入門書。国内外問わず評価が高く、理論を勉強する者より「実際に認知行動療法を行いたい」あるいは「認知行動療法を行うことになったがどうしたら良いかわからない」という者にとっては、この本から読み始めるのが良いであろう。

 1章では認知行動療法の入門編として、今までの歴史や流れ、現在の研究や認知行動療法を行う上での原則など、基本的な事柄に関する概説がなされている。2章では治療の流れとして、どの認知行動療法セッションにおいても共通する流れや考え方、手法について架空の事例の会話を踏まえたうえで解説されている。3章は認知的概念化として、目の前の患者やクライエントからの訴えをどのようにまとめ、認知行動療法的な観点から概念化していくかが述べられている。

 4章以降では、具体的なセッションの進め方について述べられている。4章ではインテークセッション、5章では初回セッションを扱う。2つの違いについては本書を見てもらえればわかるが、4章はいわゆる受理面接で、5章はセッションの初回、という位置づけになる。6章は行動活性化として、うつ病に対する行動活性化の基礎について解説がなされている。第7章では2セッション目以降のセッションでどのようなことを行っていくかが、具体的に述べられている。8章ではセッションを構造化する上で困難となる事例をいくつか紹介し、その時の対処法を具体例を示しながら紹介している。

 9章からは、技法の解説に移る。9章は自動思考を患者やクライエントがどのように見つけるか、そしてそれを援助するためのセラピストのテクニックについて扱う。10章では同じく感情を患者・クライエント自身がどのように見つけるか、セラピストはどのように援助していくかを扱っている。11章と12章では自動思考を患者・クライエントがどのように検討し、それに対処していくかを扱っている。9章と合わせて、ここでは認知再構成法の具体的手順や、「何を」「どのように」検討していくのが良いのかを丁寧に解説している。13章と14章では媒介信念・中核信念といった、自動思考の検討より一歩進んだ、個人が持っている信念を扱う方法について解説している。15章ではその他の技法として問題解決療法やリラクセーション、エクスポージャー、マインドフルネスといった技法が認知行動療法の中でどのように組み込むことが可能かを説明している。16章ではイメージ技法、17章ではホームワークの解説がなされ、18章は終結と再発予防についての解説である。

 19章では治療計画の立て方、20章ではいくつかの治療上で問題になりやすい点を挙げながら対処法について説明している。21章認知行動療法家として、どのようにスキルアップを図るべきかを解説している。

 以上に述べたように、内容は多種多様、しかし全て認知行動療法を実施する上では重要なものばかりである。この一冊を読破し、全て実践できれば認知行動療法家として初心者の域は超えたと言えるのではないか。ただ、各障害や心理的問題に合わせた見立てなどについてはこの本では述べられていないため、その辺りをカバーするには

madoro-m.hatenablog.com

を参照する必要がある。また、「認知とは何か」や自己効力感・原因帰属理論を使用した手法などを知りたければ

madoro-m.hatenablog.com

を参照のこと。

 しかし認知行動療法の基礎のほぼすべてが詰まった一冊であり、認知行動療法を実施する者は必ず読むべき一冊であることに違いはない。

 

おすすめ度:100点(認知行動療法を行うものは必ず読むように)

対象者:臨床心理士

 

認知行動療法実践ガイド:基礎から応用まで 第2版 -ジュディス・ベックの認知行動療法テキスト‐

認知行動療法実践ガイド:基礎から応用まで 第2版 -ジュディス・ベックの認知行動療法テキスト‐

 

 

認知療法―精神療法の新しい発展

著者:

アーロン.T.ベック (著), 大野 裕 (翻訳)

 

目次:

序文

第1章 常識とその彼岸
患者のジレンマ/意識と常識/常識が失敗に終わるとき/常識を越えて:認知療法

第2章 内的コミュニケーションを求めて
隠されたメッセージ/自動思考の発見/自動思考の質/自己観察と自己指示/予期/規則および内的信号

第3章 意味と情緒
意味の意味/情緒への道/個人領域/悲しみ/幸福感と興奮/不安/怒り/悲しみ,怒り,および不安の喚起を区別する

第4章 情緒障害の認知内容
急性情緒障害/神経症的障害/精神病/思考の異常の質/規則の法則

第5章 抑うつパラドックス
手がかり:喪失感覚/抑うつの発展/うつ病に関する実験的研究/うつ病の合成

第6章 警報は火事よりも悪い:不安神経症
不安/不安と恐怖/不安神経症

第7章 恐れて,しかし恐れず:恐怖症および強迫
“客観的危険"の問題/二重の確信系/恐怖症の発展

第8章 身体を越える心:精神身体障害およびヒステリー
心と身体に関する問題/精神身体障害/身体的イメージ化/ヒステリー

第9章 認知療法の原則
認知療法の標的/治療的共同作業/信頼感を作り出す/問題の還元/学習することを学習すること

第10章 認知療法の技法
実証的方法/非適応的観念を認識すること/空白を埋める/距離をおくこと,および脱中心化/結論を確認すること/規則を変えること/全体的な戦略

第11章 うつ病に対する認知療法
認知的アプローチの理論的根拠/認知の修正の標的/外部からの要求を過大視すること/認知および行動療法の予後研究

第12章 認知療法の現状
精神療法を評価すること:いくつかの基準/治療の認知システム/精神分析との比較/行動療法:認知療法の構成要素/結語

参考文献
解題
人名索引
事項索引

 

 認知療法創始者であるアーロン・ベックの代表的書籍の翻訳書。うつだけでなく、様々な精神障害心理的問題に対して認知療法による見立て・アプローチ法を紹介している。

 第1章では認知療法が生まれた経緯として、行動療法、精神分析学や薬物療法の欠点や、扱いにくい部分について述べ、そして認知療法の考え方によってそれらの点がどう克服できるかを述べている。特に「常識」の重要性を述べている点は、難解になりがちな各学派への批判として意義あるものであろう。

 2章では認知療法における重要な概念の1つである自動思考について詳細に解説している。近年では自動思考がある意味「常識」化されており、浅い理解で終わってしまう人が多い。しかし本来はとても深く、理解が難しいものであることを考えさせられる。3章では認知療法において感情や情緒がどのようにして出現すると考えるかを解説している。自動思考の内容によって出現する感情が異なることを丁寧に感情別に述べている。

 4章からは、各精神障害心理的問題に対応した自動思考についての概説を行っている。5章からは各論としてそれらの内容を詳細に解説している。内容としては抑うつ(5章)、不安神経症(全般性不安症:6章)、不安と強迫(7章)、心身症(8章)の認知療法的見立てについて紹介されている。

 9章からは認知療法の実施について、解説している。9章では認知療法に必要な基本的な態度を挙げ、それらの重要性について述べている。10章ではいくつかの技法を紹介し、11章では具体的な介入の紹介としてうつ病認知療法を上げ、具体的な事例を出しながら紹介している。12章では認知療法の現状として、精神分析や行動療法との比較を行っている。

 元の書籍が出版されたのが随分前であり、現在の認知行動療法的アプローチとは違う部分も多いし、それらを解説している良著も沢山ある。また、具体的な介入法やセッションの進め方について学びたいのであれば

madoro-m.hatenablog.com

を読めばよい。

 しかし創始者による「心理療法の中で認知療法の立ち位置はどこにあるか」「認知療法の根底にはどのような考えがあるのか」といった解説がなされているのは大きく、認知行動療法に関わっている物であれば、必ず一読するべき一冊である。特に現在あまり語られなくなった「躁」の認知行動療法的理解の章は必見。

 

おすすめ度:85点

対象者:学部生・大学院生・臨床心理士・研究者(認知行動療法を実施・研究する者すべて)

認知療法―精神療法の新しい発展 (認知療法シリーズ)

認知療法―精神療法の新しい発展 (認知療法シリーズ)

 

 

現代臨床精神医学

著者

大熊 輝雄 (著), 「現代臨床精神医学」第12版改訂委員会 (編さん)

 

目次

■総論
第1章 精神医学序論
 I. 精神医学の概念
 II. 精神医学における正常・異常と健康・病的状態(疾病)の問題
 III. 精神医学の対象領域
 IV. 精神科患者の処遇
 V. 精神医学の方法
 VI. 精神障害の成因、経過と分類
第2章 精神現象の神経科学的基礎
 I. 心身相関の問題
 II. 脳と精神現象
 III. 精神生理学
 IV. 神経化学と神経薬理
 V. 精神神経内分泌学と精神神経免疫学
第3章 精神の発達・加齢と精神保健
第4章 精神症状学
 I. 序論
 II. 個々の精神症状
 III. 神経心理学高次脳機能障害
 IV. 主要な症候群と状態像
第5章 精神医学的診断学
 I. 精神医学における診断の手順
 II. 理化学的検査
 III. 心理検査

■各論
第6章 症状性を含む器質性精神障害
 I. 器質性精神障害、器質精神病
 II. 身体疾患に伴う精神障害(症状精神病)
 III. てんかん
 IV. アルコ-ル関連精神障害
 V. 精神作用物質使用による精神および行動障害(薬物依存)
 VI. 医薬品使用に伴う障害
 VII. 職業中毒、公害などに関連した化学物質による中毒精神病
第7章 神経症性障害・ストレス関連障害・身体表現性障害;人格・行動の障害
第8章 統合失調症、妄想性障害と気分障害
 I. 統合失調症
 II. 持続性妄想性障害
 III. 急性一過性精神病性障害
 IV. 感応性妄想性紹介
 V. 統合失調感情障害
 VI. 非定型精神病
 VII. 気分障害、感情障害、躁うつ病
第9章 児童・青年期および老年精神医学
 I. 概説
 II. 児童期および青年期の精神発達
 III. 児童・青年期の精神医学の特性
 IV. 児童期および青年期にみられる精神障害
第10章 精神医学と社会との関連
 I. 高度情報社会と精神医学
 II. 精神障害者処遇の法規
 III. 司法精神医学
 IV. 社会と精神医学
第11章 精神医学的治療学
 I. 精神科治療の特色
 II. 精神科治療の発達
 III. 身体療法
 IV. 精神療法
 V. 精神障害リハビリテ-ション
 VI. 精神科救急医療
 VII. コンサルテ-ション・リエゾン精神医学

付表
 1-1. International Classification of Diseases,Chapter V(F)、Tenth Revision(ICD-10) 
 1-2. 国際疾病分類(ICD-10)における気分[感情]障害の分類
 2.DSM-IV-TR分類
 3.Mini-Mental State Examination(MMSE) 
 4. DSM-4.てんかん発作の国際分類 
 5. てんかんおよびてんかん症候群の国際分類 
 6. Clinical Dementia Rating(CDR)
 7. Brief Psychiatric Rating Scale(BPRS)の日本語翻訳版 
 8. Hamilton’s Rating Scale for Depression(HRSD) 
 9. 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律 
 10. 医師国家試験出題基準(平成17年度版)

 

 国内では代表的な精神医学教科書の1つ。精神医学の歴史から神経科学的基礎、各精神障害論、治療学までありとあらゆる精神医学的知識が記載されている。

 第1章は精神医学序論として、精神医学の歴史や分類学の変遷などが解説されている。第2章では精神現象の神経科学的基礎として、神経科学と精神現象(症状)の関係性について述べられている。神経科学の基礎は理解していることが前提なので、知識に自信がない人は先に

madoro-m.hatenablog.com

を読むことを勧める。通常の神経科学だけでなく、神経化学(神経伝達物質等)、あるいは遺伝子の知識も重要である。多くの臨床心理士はこの辺の知識をないがしろにしがちであるが、正確な患者・クライエントのアセスメントのためには絶対に全員知っておくべきである。また、医師とのコミュニケーションや薬物処方の意図を理解するためにも重要である。3章では精神発達と加齢について述べられているが、ページ数も少なく、特段重要なことは書かれていない。これであれば、他書で十分であろう。

 4章では精神症状学として、意識障害や知能の障害、記憶・知覚・思考・感覚・言語の障害といった従来の精神医学が対象としてきた精神症状を1つ1つ丁寧に解説している。特に意識障害や言語の障害などは臨床心理士の勉強がおろそかになりやすい部分なので、熟読することを勧める。この章は各症状の定義、分類、現象学が綿密に記載されており、勉強になる。5章では精神医学的診断学との章題の通り、精神科医師が使用する診断のための方法論について解説がなされている。面接時に聞く内容から身体的な所見、理化学的検査(神経画像診断から脳波、髄液検査法(!)に至るまで)を解説している。臨床心理学を学ぶだけでは教わらないような内容が多いため、特に病院に勤務する者は必ず知っておくべき内容であろう。最後に心理検査についても少し述べられているが、内容がやや古いのと、ページ数が少ないのが気になる。中心は神経心理学的アセスメントであるので、それであれば

madoro-m.hatenablog.com

こちらの本で更なる知識を増やすのがおすすめである。

 6章では器質性精神障害として、認知症や脳血管系の障害や、感染症や内分泌疾患による身体疾患に伴う精神障害てんかん、アルコール関連精神障害、薬物依存、が解説されている。これらはまさに精神医学が対象としてきた代表的な障害であり、その分多くのページ数が割かれている。内容も十分過ぎるほど充実しており、これらの内容を勉強したければ、この本から入るのが良いだろう。ただ内容が医学寄りであるため難解に感じるかもしれない。その際は他書を参照しつつ、読み進めていくとよいだろう。

 7章は従来「神経症」としてまとめられてきた各障害に関する解説がなされている。歴史や分類学については一読の価値があるが、一つ一つの障害の解説が少なく、網羅的にまとめただけの感じが否めない。8章は統合失調症気分障害の解説であるが、こちらは前章と比べてかなり充実している(精神医学なので当然と言えば当然である)。歴史から疫学、神経化学的な仮説から症状学まで丁寧に解説されており、この1章を読めば統合失調症気分障害の基本は理解できたと言えるのではないか。ただ、治療法がほぼ薬物療法のみの紹介であるため、実際に心理的介入を行う場合は、この本だけでなく別書を当たる必要がある。

 9章は児童・青年・老年精神医学ということで、発達的な関連がある精神障害がまとめられている。これも通常の知的障害や発達障害というよりは、器質的な問題に伴う精神障害が多く記載されており、臨床心理学の書籍では扱わないような障害なども多く出てくるため、読んでおいて損はない。10章は社会と精神医学ということで、精神障害と社会の関係性や、関連法規、自殺への危機介入などといった内容が中心になっている。

 11章は治療学ということで、中心は薬物の作用機序である。各薬物の作用機序に関して詳細に解説されており、一読の価値はある。ただ、このような内容の知識が乏しい場合は、入門書を当たってから読むことを勧める。ある程度知識がないと、何を言っているかほとんどわからないだろう。おまけのように精神療法やリハビリテーションの話も載っているが、解説が少なすぎてあまり参考とはならない。

 精神医学を学ぼうとする人には良著であろうが、心理学とは異なる分野の本であるので、やや好き嫌いが分かれるかもしれない(いわゆる臨床心理学的な内容はほとんど出てこない)。ただ、臨床心理士であれば知っておかなければならない知識が満載なので、少し頑張ってでも読む価値はある。嫌がっていても、いつかは覚えなければいけない内容であるのは間違いない。大変なのは承知で、この機会に是非取り組んでみてはいかがだろうか。読んで損することは一つもない。

 

おすすめ度:65点(章ごとのばらつきが大きい)

対象者:大学院生・臨床心理士 

現代臨床精神医学

現代臨床精神医学

  • 作者: 大熊輝雄,「現代臨床精神医学」第12版改訂委員会
  • 出版社/メーカー: 金原出版
  • 発売日: 2013/04
  • メディア: 単行本
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臨床心理学第17巻第4号―必携保存版 臨床心理学実践ガイド

筆者

岩壁 茂 (編さん), 「臨床心理学」編集委員会 (編さん)

 

目次

巻頭言 100号発刊に際して―村瀬嘉代子
序 文 100号記念特集号の読み方・使い方―岩壁 茂
アセスメント/インテーク
アセスメント( 診断・分類)―黒木俊秀
アセスメント( 知能検査)―鉄島清毅
アセスメント( 神経心理学的アセスメント)―小海宏之
アセスメント( 心理検査・パーソナリティ検査)―川島ゆか
アセスメント( 心理検査・行動的アセスメント)―稲田尚子
アセスメント( 心理検査・投映法)―津川律子
治療的アセスメント( Therapeutic Assessment)―中村紀子
ケースフォーミュレーション―三田村仰
ケースのアセスメントとマネジメント―近藤直司

サイコセラピー
●精神力動
国際精神分析協会/フロイト/自我心理学―妙木浩之
精神分析( ユング/分析心理学)―河合俊雄
精神分析( イギリス/対象関係論)―上田勝久
精神分析( アメリカ)―吾妻 壮
フランスの精神分析 ラカン派を中心に―松本卓也
短期力動療法―飯島典子
メンタライゼーション―白波瀬丈一郎
●認知・行動
重篤な精神障害への認知行動療法―石垣琢麿
ACT( Acceptance and Commitment Therapy)―武藤 崇
行動活性化―小川祐子+鈴木伸一
スキーマ療法―伊藤絵美
弁証法的行動療法―永田利彦
Prolonged Exposure Therapy( 持続エクスポージャー法)―吉田博美
コンパッション・フォーカスト・セラピー―石村郁夫
●ヒューマニスティック・アプローチ
パーソン・センタード・アプローチ―中田行重
ロゴセラピー―諸富祥彦
フォーカシング―池見 陽
ゲシュタルト療法―百武正嗣
アドラー心理学―野田俊作
交流分析―門本 泉
動機づけ面接―岡嶋美代
EFT( Emotion-Focused Therapy)―岩壁 茂
心理療法統合
心理療法の基本―村瀬嘉代子
心理療法統合 常に探求を続ける姿勢そのもの―福島哲夫
折衷アプローチ―東 斉彰
アプローチ間の交流―岡 昌之
アタッチメントに基づく介入―北川 恵
AEDP( Accelerated Experiential Dynamic Psychotherapy)―花川ゆう子
統一プロトコル―伊藤正哉
●心身相関=心的外傷
EMDR( 眼球運動による脱感作と再処理法)―市井雅哉
ソマティック・エクスペリエンシング―福井義一
マインドフルネス―大谷 彰
森田療法―久保田幹子
ヨガ―古宮 昇
動作法―田中新正
●発達・社会学
応用行動分析学( ABA)―松見淳子
アレント・トレーニング―谷 晋二
SST―皿田洋子
親子関係改善プログラム―西牧陽子
●家族・集団
家族療法―中村伸一
ソリューション・フォーカスト・セラピー―黒沢幸子
オープンダイアローグ―下平美智代
CRAFT( コミュニティ強化と家族訓練)―境 泉洋
グループアプローチ―朝比奈牧子
心理劇―春原由紀
サポート・グループ―高松 里
セルフヘルプ( 自助)グループ―近藤あゆみ
●記憶=人生
ナラティヴ・アプローチ―森岡正芳
ライフストーリーワーク―才村眞理
内観療法―真栄城輝明
回想法―黒川由紀子
神経科学
神経科学心理療法岡野憲一郎
ニューロフィードバック―佐藤 譲+原千恵子
感情神経科学―成田慶一
高次脳機能障害リハビリテーション―中島恵子

トレーニング/リサーチ
●教育・訓練
エビデンス・ベイスト・プラクティス―原田隆之
心理支援における連携・協働―花村温子
科学者-実践家モデル―沢宮容子
コンピテンシー・モデル―金沢吉展
生物-心理-社会モデル―岩壁 茂
スーパーヴィジョン・システム―平木典子
臨床家の成長と発達―割澤靖子
バーンアウトとセルフケア―小堀彩子
●研究
アクション・リサーチ―吉永真理
プログラム評価―安田節之
グラウンデッド・セオリー―能智正博
当事者研究―熊谷晋一郎
効果研究とクライエント・フィードバック―下川健一
事例研究―橋本和
●社会と文化
日本の心理療法小史 臨床心理学の定着と普及の過程―長谷川明弘
うつの医療人類学―北中淳子
若者の自殺から見える孤独感と存在的苦悩( Existential Suffering)―小澤デシルバ慈子
LGBTと臨床心理学―石丸径一郎
摂食障害ジェンダー―磯野真穂
うつと企業社会―渡部 卓
内観療法仏教―クラーク・チルソン
民間療法と臨床心理学―東畑開人
インターネット文化と心理援助―末木 新
災害と臨床心理学―冨永良喜

Book Review
臨床心理学の名著10選―森岡正芳
『臨床心理学』特集号・増刊号一覧

 

 雑誌「臨床心理学」の100巻記念号。アセスメント・療法・訓練と研究の3つの観点から、各分野の専門家が見開き一ページで解説を行っており有名どころからややマイナーな分野までほぼほぼ網羅されている。対象読者は初心者ではなく、ある程度知識がある人向け。そのため、学生が読んでもあまり利益にはならないかもしれない。また、ページ数が少なすぎて、各内容で1テーマ程度しか扱えていない。興味のあるところを中心に読んで、そうでないところは流し読み程度の使い方が良いかもしれない。

 

おすすめ度:65点

対象者:臨床心理士

 

 

臨床心理学第17巻第4号―必携保存版 臨床心理学実践ガイド

臨床心理学第17巻第4号―必携保存版 臨床心理学実践ガイド

 

 

心理尺度のつくり方

著者

村上 宣寛

目次

第1章 歴史的方法
第2章 統計的基礎
第3章 信頼性
第4章 妥当性
第5章 尺度開発法
第6章 尺度開発の実際

 

 心理尺度や検査の妥当性の低さに警鐘を鳴らし続けてきた著者による、心理尺度の作成法をまとめた一冊。

 第1章では尺度作成研究の歴史を紹介し、どのような基準をもって良い尺度とするか、各基準は現在どのような評価を受けているかを、実際の尺度を例に出しながら簡単に解説している。2章では具体的な統計手法として相関係数や回帰分析を紹介し、実際の尺度データを例に出しながらこれらの方法が尺度研究においてどのような意義を持っているかを解説している。

 3章では信頼性について一般的な概説を行っている。信頼係数の算出だけでなく、項目反応理論や一般化可能性理論の解説も行っている。項目反応理論に関する書籍は近年多く出版されるようになったが、現在再検査信頼性を求める際に多く用いられる級内相関係数の基礎となる一般化可能性理論の紹介は未だ多くなされておらず、その意味でも貴重な章である(分量はかなり少ないが)。4章では妥当性について一般的な概説を行っている。旧来の妥当性概念を整理し、改めてどのような基準で妥当性を定義・測定するのが良いかを解説している。

 5章からは具体的な尺度作成法について解説している。特に図5.1の作成フローチャートはとてもわかりやすい。実際に1から項目を作成しようとするとどこから手を付けたらよいかわからなくなりがちであるが、この本では項目の作成から(もっと言えば、どのような概念を測定するか、という所から)回答方式はどうするか、試作版の結果をどう理解するか、項目分析はどのようにして行うか、そこから良い尺度にしていくにはどのような方法を踏めばいいかを懇切丁寧に、初学者でも十分に行えるほど優しく書かれている。6章では具体例として著者らが作成した6つの尺度について、製作手順や各分析の内容など、「どのように」作成したかが丁寧に解説されている。

 

 学部生から大学院生、研究者まで、心理尺度を作成する研究が国内外含めて大量に行われ、出版されている。中には少しばかり作成において疑問に感じる尺度が少なくない。そのようにして作られた尺度は妥当性が低く、その尺度を使用する研究者・回答者に無駄な負担を強いるだけである。もし臨床場面で使用する尺度であれば、なおさらである。自分が作る尺度がそのようなモノにならないよう、本書を熟読し研究に挑んでほしい。中途半端な尺度作成は害悪でしか無い。

 

おすすめ度:100点(尺度作成者は必ず一度は読むことを勧める)

対象者:尺度作成を行う者全て

 

 

心理尺度のつくり方

心理尺度のつくり方