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新・脳の探検〈上〉脳・神経系の基本地図をたどる

著者:

フロイド・E・ブルーム (著), 久保田 競 (監訳),中村克樹 (監訳)

 

目次

第1章 脳・神経系への招待
第2章 脳の細胞のしくみと働き
第3章 脳の生涯発達
第4章 感覚系
第5章 運動系
第6章 体内環境の維持――ホメオスタシス

 

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神経心理学的アセスメント・ハンドブック

著者

小海 宏之

 

目次

はじめに
第1章 神経心理学的アセスメント概論
第2章 脳科学概論
第3章 利き手検査
第4章 全般的知的機能検査
第5章 前向性記憶機能検査
第6章 行動記憶検査
第7章 逆向性記憶機能検査
第8章 注意・集中機能検査
第9章 視空間認知機能検査
第10章 遂行機能検査
第11章 前頭葉機能検査
第12章 意思決定機能検査
第13章 失語症検査
第14章 定性的アセスメント
第15章 神経心理学的検査報告書の書き方
おわりに
索 引

 

 多くの神経心理学的アセスメントの紹介と解説を行った一冊。合計して46もの検査の概要と信頼性や妥当性といった検査特性が記載されており、使用された事例も豊富に紹介されている。神経心理学的アセスメントを解説した類書はいくつかあるが、ここまで内容が充実していながら、この値段の安さとコンパクト感は他に類を見ないのではなかろうか。また、最近の本であるため、現在実践場面で使用される頻度が高い検査ばかりなのも良い。

 第1章は神経心理学的アセスメントの概論として、神経心理学的アセスメントの目的や方法について数ページで触れている。第2章は神経心理学の基礎ともいうべき脳科学の概論をやや詳細に扱っている。この章はやや難解であり、脳神経科学の知識がある程度ないと読みこなすのは困難であろう。知識に自信がなく読むのが難しい人はこの章を飛ばし、先に3章以降を読むことを勧める。そして同時に

madoro-m.hatenablog.com

の本を読むことを勧める。その上で2章を読むと、だいぶ理解度が違うはずである。

 第3章以降では、各種神経心理検査の解説に入る。類書では解説の少ない検査についても触れられたりしていることはポイントが高い。ネックは、浅く広くを突き詰めすぎて各検査の解説がややアッサリ目であること。しかし各検査の文献リストが各章の終わりに記載されており、より詳細に知りたい場合はそちらを参照するとよいだろう。ほぼすべての検査の文献が紹介されており、この文献リストだけでも十分な価値がある。また、無料の検査のほとんどが本の中に掲載されているため、これから神経心理学的アセスメントを使おうという人にも役立つ

 

 各種検査を実施している者はもちろんであるが、大学院試験や臨床心理士試験で出題されるような検査も含んでいるため、受験する人も一読しておくと良いだろう。

おすすめ度:75点(各検査使用者は85点)

対象者:臨床家(各検査使用者)・大学院試験・心理士試験

神経心理学的アセスメント・ハンドブック

神経心理学的アセスメント・ハンドブック

 

※以下に、記載されている全ての検査を記す。

エディンバラ利き手検査(Edinburgh Handedness Inventory:EHI)

ウェクスラー式児童用知能検査(Wechsler Intelligence Scale for Children:WISC-Ⅲ・Ⅳ)

ウェクスラー式成人知能検査(Wechsler Adult Intelligence Scale:WAIS-R, WAIS-Ⅲ)

カウフマン式児童用アセスメント・バッテリー(Kaufman Assessment Battery for Children:K-ABC, KABC-Ⅱ)

DN-CAS認知評価システム(Das-Naglieri Cognitive Assessment System:DN-CAS)

神経行動認知状態検査(Neurobehavioral Cognitive Status Examination:COGNISTAT)

精神状態短時間検査(Mini-Mental State Examination:MMSE)

モントリオール認知アセスメント(Montreal Cognitive Assessment:MoCA)

神経心理状態反復性バッテリー(Repeatable Battery for the Assessment of Neuropsychological Status:RBANS)

アルツハイマー病アセスメント・スケール(Alzheimer’s Disease Assessment Scale:ADAS)

長谷川式簡易知能評価スケール(Hasegawa Dementia Scale:HDS, HDS-R)

N式精神機能検査(Nishimura Dementia Scale:NDS

N式精神機能検査(Nishimura Dementia Test:NDTest)

統合失調症用認知の簡易アセスメント(Brief Assessment of Cognition in Schizophrenia:BACS)

日本版成人読みテスト(Japanese Adult Reading Test:JART)

一般職業適性検査(General Aptitude Test Battery:GATB)

改訂版ウェクスラー式記憶検査(Wechsler Memory Scale-Revised:WMS-R)

三宅式言語記銘力検査

ベントン視覚記銘検査(Benton Visual Retention Test:BVRT)

レイ複雑図形(Rey-Osterrieth Complex Figure:ROCF)

リバーミード行動記憶検査(Rivermead Bahavioural Memory Test:RBMT)

自伝的記憶検査(Autobiographical Memory Test:ABMT)

価格テスト(Prices Test)

標準注意検査法(Clinical Assessment for Attention:CAT)

標準意欲評価法(Clinical Assessment for Spontaneity:CAS)

行動性無視検査(Behavioural Inattention Test:BIT)

時計描画検査(Clock Drawing Test:CDT)

コース立方体組み合わせ検査(Kohs Block Design Test)

レーヴン色彩マトリックス検査(Raven’s Coloured Progressive Matrices:RCPM)

標準高次視知覚検査(Visual Perception Test for Agnosia:VPTA)

線引きテスト(Trail Making Test:TMT)

実行時計描画課題(Executive Clock Drawing Task:CLOX)

実行検査(Executive Interview:EXIT25)

遂行機能障害症候群の行動評価(Behavioural Assessment of the Dysexecutive Syndrome:BADS)

標準高次動作性検査(Standard Performance Test of Apraxia:SPTA)

語流暢性テスト(Verbal Fluency Test:WFT)

前頭葉アセスメント・バッテリー(Frontal Assessment Battery:FAB)

ウィスコンシンカード分類検査(Wisconsin Card Sorting Test:WCST)

ストループ・テスト(Stroop Test)

修正作話質問紙(Modified Confabulation Questionnaire)

マックアーサー式治療用同意能力アセスメント・ツール(MacArthur Competence Assessment Tool-Treatment:MacCAT-T)

アイオワ・ギャンブリング課題(Iowa Gambling Task:IGT)

WAB失語症検査(Western Aphasia Battery:WAB)

標準失語症検査(Standard Language Test of Aphasia:SLTA)

ハノイの塔(Tower of Hanoi)

脳のメモ帳―ワーキングメモリ

著者:苧阪 満里子

 

目次

1章 ワーキングメモリの成立 
ワーキングメモリとはなにか 
記憶のしくみ 
短期記憶からワーキングメモリへ 

2章 言語とワーキングメモリ 
言語を支えるワーキングメモリ 
ワーキングメモリの個人差とは 

3章 ワーキングメモリを測定する 
日本語のリーディングスパンテスト 
リーディングスパンテスト遂行のエラーと方略 

4章 ワーキングメモリと第二言語 
第一言語第二言語リーディングスパンテスト 
言語習得期間とワーキングメモリ 

5章 加齢と発達 
加齢とワーキングメモリ 
発達とワーキングメモリ 

6章 注意とフォーカス 
文のフォーカス 
リーディングスパンテストと文のフォーカス 
視覚的世界とフォーカス 

7章 ワーキングメモリの神経基盤 
ワーキングメモリを支える脳 
ニューロイメージによるワーキングメモリの神経基盤の探求 

8章 言語理解の神経基盤 
リーディングスパンテストの神経基盤 
ワーキングメモリの個人差とその神経基盤 
前部帯状回のはたらき 
シータ(θ)波からワーキングメモリを探る 

9章 ワーキングメモリのモデル 
ワーキングメモリの脳内モデル 
ワーキングメモリと自己意識 
資料 リーディングスパンテスト(成人用) 

 

 近年、教育界でも話題になりつつあるワーキングメモリに焦点を絞った一冊。焦点を絞った分、内容は認知心理学における記憶領域の入門的な話から、当時の最新の研究動向に至るまで詳細に記されている。出版されている多くの書籍ではワーキングメモリの向上や活かし方について紹介されることが多いが、その基となる基礎理論を勉強するには最良の一冊。

 1章では、記憶研究の歴史やワーキングメモリの概要について丁寧に述べられている。この辺りは認知心理学の概論書でカバー可能であるが、やはりワーキングメモリの説明は詳細かつわかりやすいので、知識がある人も一読を勧める。

 2章以降では、各分野でのワーキングメモリ研究の動向を紹介している。言語とワーキングメモリについて(2~4章)、ワーキングメモリと発達(5章)、ワーキングメモリと注意(6章)、ワーキングメモリと神経基盤(7、8章)、ワーキングメモリのモデル(9章)と、多種多様に渡る分野を詳細に説明している。ただし2章以降の難易度は割と高めであり、前提となる知識を持っていないと読み進めるのが大変かもしれない。2章以降は割と独立して書かれているため、1章を読んだ後は興味のある分野を読んでいくのが良いだろう。

 ワーキングメモリーの入門書としては質が高く、この領域について知りたい人は本書から入ると良いだろう。記憶研究者はもちろんのことであるが、特に1章・2章・5章・6章は教育分野や臨床分野の人も一読の価値がある。ワーキングメモリーに弱さを抱えやすい発達障害児(者)をクライエントに持っていたり、知能検査や発達検査を実施する検査者は1章だけでも読んでおいて損はない。

 

おすすめ度:80点

難易度:やや難しめ

対象者:学部生・大学院生・研究者・臨床家

 

ワーキングメモリ―脳のメモ帳

ワーキングメモリ―脳のメモ帳

 

 

心理アセスメントレポートの書き方

著者

エリザベス・O. リヒテンバーガー  (著), ネイディーン・L. カウフマン  (著), アラン・S. カウフマン (著), ナンシー マザー  (著), Elizabeth O. Lichtenberger (原著), Alan S. Kaufman (原著), Nadeen L. Kaufman (原著), Nancy Mather (原著), 上野 一彦 (翻訳), 染木 史緒 (翻訳)

 

目次

第1章 はじめに
第2章 レポートを書く技術
第3章 相談内容と背景情報
第4章 行動観察
第5章 検査結果と解釈
第6章 診断(見立て)と要約
第7章 指針
第8章 レポートの作成に関する特別な事項
第9章 ケースレポート事例
資料 新しい心理検査情報について(日本の読者のために)
付録 テスト情報

 

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Rによるやさしい統計学

著者

山田 剛史  (著), 杉澤 武俊  (著), 村井 潤一郎  (著)

 

目次

第1部 基礎編(Rと統計学
1つの変数の記述統計
2つの変数の記述統計
母集団と標本
統計的仮説検定 ほか)
第2部 応用編(ベクトル・行列の基礎
データフレーム
外れ値が相関係数に及ぼす影響
統計解析で分かること・分からないこと
二項検定 ほか)
付録

 

 近年、心理学界隈でも多く用いられるようになってきた統計ソフトRに関する初心者向け解説書。Rの本は沢山あるが、心理学で使われる分析手法に焦点を当てている入門書としては、かなり質の高い部類であろう。

 はじめにRとは何か、そして導入するにはどうしたら良いかを丁寧にインストール画面の画像付きで解説し、簡単な計算や関数についても紹介している。初めの章だけ読めば、Rの導入に困ることは無いであろう。

 2章と3章で平均や分散、標準化といった1変数の記述統計と散布図や相関といった2変数の記述統計を扱う。これらの分析について、Rで計算させながら理論的に説明していくスタイルをとっている。関数や分析だけを行いたい場合は、この辺は飛ばしても良いだろう(もちろん、理論的な部分も知っておくことが重要ではあるが)。

 5章~7章では、無相関検定、カイ二乗検定、t検定、分散分析といった仮説検定の実施方法とその理論的背景について解説している。これらを読めば、基本的な心理統計学的分析の基礎は習得したと言ってよいだろう。

 8章からは応用として、エクセルなどからのデータの読み込み方法(9章)、逆転項目の処理やα係数の算出(14章)、回帰分析(15章)、因子分析(16章)、共分散構造分析(SEM:17章)といった、心理学の研究でなじみ深い手法をRで実施する方法が詳しく丁寧に説明されている。

 

 「今までSPSSを使ってきたが、Rを学びたい」という人は、初めの一冊としてこの本を選んで間違いないように思う。その一方、この本から心理統計学を始めるのはなかなかハードであるように思う。自分が行いたい分析手法のページを読みながら、Rで自分のデータを触るのが一番ベストな使い方かもしれない。

 

おすすめ度:90点

対象者:学部3年程度~研究者(Rを学びたい人)

 

 

Rによるやさしい統計学

Rによるやさしい統計学

 

 

よくわかる臨床心理学

筆者

下山 晴彦 (編集)

 

目次

臨床心理学とは何か1・構造と歴史
臨床心理学とは何か2・基本理論
問題を理解する(アセスメント)1・目的と方法
問題を理解する(アセスメント)2・データの収集技法
問題を理解する(アセスメント)3・データの分析技法
問題を理解する(アセスメント)4・異常心理学
問題を理解する(アセスメント)5・ライフサイクルと心理的問題
問題を理解する(アセスメント)6・発達過程で生じる障害や問題
問題に介入する1・理論モデル
問題に介入する2・介入技法 1個人
問題に介入する3・介入技法 2集団・社会

問題に介入する4・コミュニティにおける相談活動
臨床心理学研究
社会的専門性
臨床心理士になるために

 

 多くの学校で用いられる臨床心理学の教科書。

 第1章はいつもの下山節だなぁという感想以外は浮かばない(ただし、とても重要であることに違いはないが)。

 しかし2章以降はナラティブや科学者ー実践家モデルといった思想の話(2章)、面接法から脳画像まで含むアセスメント論(3章)、各精神障害(第5・6章)や介入アプローチ(7~10章)と、臨床心理学的知識は一通り記載されている。この一冊さえ理解できれば、臨床心理学に関する入門的知識は概ね獲得できたと言ってもいいのではないか。

 ただ、網羅性を向上させた代わりに一つ一つのテーマが薄く(見開き1ページ程度のものがほとんど)、あくまで「入門的な知識」しか身に着けられない。そのため、この一冊だけで臨床心理学という学問を理解するのは不可能であろう。しかし、それを差し引いても良書と言える。一歩突っ込んだ内容は、別書を読めばよいだけのことである。

 

臨床心理学の大学院試験や臨床心理士試験においても重宝する一冊。やや情報が古くなってきたことと、情報の浅さがネックか。

 

おすすめ度:90点

対象:学部1年生~臨床心理士試験

 

よくわかる臨床心理学 (やわらかアカデミズム・わかるシリーズ)

よくわかる臨床心理学 (やわらかアカデミズム・わかるシリーズ)

 

 

日本版WAIS-Ⅲの解釈事例と臨床研究

筆者

藤田 和弘 大六 一志 山中 克夫 前川 久男 

目次

第1部 WAIS‐3の理論的背景とアセスメントの進め方(WAISの変遷と理論的背景
WAIS‐3の検査結果を解釈する手順
WAIS‐3によるアセスメントレポートの書き方)


第2部 WAIS‐3によるアセスメント事例(精神科医療領域
高次脳機能リハビリテーション領域
老年医療領域
高等教育・就労領域)

 

第3部 WAIS‐3による臨床研究(簡易実施法
WAIS‐3から見た臨床群の特徴)
付録(仮説を採択するための根拠(背景情報等)
用語解説(測定用語))

 

 日本では唯一のWAIS-Ⅲに関する専門書。

 最初の数ページで知能検査の歴史や現在の動向をまとめ、その後は具体的にどのように結果を算出し、その結果をどう解釈していけばいいかを解説している。各群指数の説明にとどまらず、補助検査の解釈や、他の媒体から既に得られている情報とどう統合するかといった所見を書く上で不可欠な部分も詳細にかかれている。また、言語性・動作性IQは不要であるとWAIS-Ⅲ開発メンバーが言及している点も見逃せない(WISCではとっくの昔に言われている。未だ言語性・動作性を解釈に使っている人は至急この本を読むように)。

 アセスメントレポートの書きかたもややあっさり目ではあるが書かれている。事例は8つ載っているが、やや領域が特殊でそのまま使えるようなものではないため、あくまでも書き方のお手本として使えるだろう。アセスメントレポートの書き方については、この本

madoro-m.hatenablog.com

が詳しいので、こちらを参照した方が良いだろう。

 最後には「複数回行なったときの影響」や「簡易版の実施法および採点」「臨床群のプロフィール」といったこの本ならでは(というより、開発メンバーだからこそ書ける)の内容も書かれており、WAIS-Ⅲを使う人間であれば、読んで損になることは一つもない。

 一つ気になる点は、プロフィール分析である。この本では群指数だけでなく、各検査で測定されている概念の共通項(たとえば「視覚-運動協応」や「情報の符号化」など)をまとめた「プロフィール分析」と呼ばれるもの(いわゆるプロフィール分析ではなく、本書内でも述べられているように群指数以外で検査結果に影響を与えている「能力や影響因」の探索である)が載っており、かつ具体的に所見に書くための基準まで整備されている。しかしこのプロフィール分析が「どうしてこの基準になったのか」「そもそも各検査でこれらが本当に影響しているのか」に関する説明はまったくなく、本書に書かれていることを鵜呑みにするのはあまりよくないと思う。また、プロフィール分析の内容もやや古くわかりにくい。そのため、解釈に使用する際に有用であるとは自信を持って言える段階にはまだ無いと思われる。ただ、このような試みを試験的に行なったことは評価できるし、今後の研究が待たれる部分であろう。あと、最後のページにおまけのように載っている、日常生活と各能力との対応表は、必見。

 

まとめ

 検査を取る人だけでなく、検査を診る人にも必携の一冊である。内容は十分であるが、情報が少しばかり古くなってきたのと、やや値段が高いのがネックか。

 

おすすめ度:75点(WAISを使う人は100点)

 

 

日本版WAIS‐IIIの解釈事例と臨床研究

日本版WAIS‐IIIの解釈事例と臨床研究

  • 作者: 藤田和弘,大六一志,山中克夫,前川久男
  • 出版社/メーカー: 日本文化科学社
  • 発売日: 2011/04/01
  • メディア: 単行本
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