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認知療法―精神療法の新しい発展

著者:

アーロン.T.ベック (著), 大野 裕 (翻訳)

 

目次:

序文

第1章 常識とその彼岸
患者のジレンマ/意識と常識/常識が失敗に終わるとき/常識を越えて:認知療法

第2章 内的コミュニケーションを求めて
隠されたメッセージ/自動思考の発見/自動思考の質/自己観察と自己指示/予期/規則および内的信号

第3章 意味と情緒
意味の意味/情緒への道/個人領域/悲しみ/幸福感と興奮/不安/怒り/悲しみ,怒り,および不安の喚起を区別する

第4章 情緒障害の認知内容
急性情緒障害/神経症的障害/精神病/思考の異常の質/規則の法則

第5章 抑うつパラドックス
手がかり:喪失感覚/抑うつの発展/うつ病に関する実験的研究/うつ病の合成

第6章 警報は火事よりも悪い:不安神経症
不安/不安と恐怖/不安神経症

第7章 恐れて,しかし恐れず:恐怖症および強迫
“客観的危険"の問題/二重の確信系/恐怖症の発展

第8章 身体を越える心:精神身体障害およびヒステリー
心と身体に関する問題/精神身体障害/身体的イメージ化/ヒステリー

第9章 認知療法の原則
認知療法の標的/治療的共同作業/信頼感を作り出す/問題の還元/学習することを学習すること

第10章 認知療法の技法
実証的方法/非適応的観念を認識すること/空白を埋める/距離をおくこと,および脱中心化/結論を確認すること/規則を変えること/全体的な戦略

第11章 うつ病に対する認知療法
認知的アプローチの理論的根拠/認知の修正の標的/外部からの要求を過大視すること/認知および行動療法の予後研究

第12章 認知療法の現状
精神療法を評価すること:いくつかの基準/治療の認知システム/精神分析との比較/行動療法:認知療法の構成要素/結語

参考文献
解題
人名索引
事項索引

 

 認知療法創始者であるアーロン・ベックの代表的書籍の翻訳書。うつだけでなく、様々な精神障害心理的問題に対して認知療法による見立て・アプローチ法を紹介している。

 第1章では認知療法が生まれた経緯として、行動療法、精神分析学や薬物療法の欠点や、扱いにくい部分について述べ、そして認知療法の考え方によってそれらの点がどう克服できるかを述べている。特に「常識」の重要性を述べている点は、難解になりがちな各学派への批判として意義あるものであろう。

 2章では認知療法における重要な概念の1つである自動思考について詳細に解説している。近年では自動思考がある意味「常識」化されており、浅い理解で終わってしまう人が多い。しかし本来はとても深く、理解が難しいものであることを考えさせられる。3章では認知療法において感情や情緒がどのようにして出現すると考えるかを解説している。自動思考の内容によって出現する感情が異なることを丁寧に感情別に述べている。

 4章からは、各精神障害心理的問題に対応した自動思考についての概説を行っている。5章からは各論としてそれらの内容を詳細に解説している。内容としては抑うつ(5章)、不安神経症(全般性不安症:6章)、不安と強迫(7章)、心身症(8章)の認知療法的見立てについて紹介されている。

 9章からは認知療法の実施について、解説している。9章では認知療法に必要な基本的な態度を挙げ、それらの重要性について述べている。10章ではいくつかの技法を紹介し、11章では具体的な介入の紹介としてうつ病認知療法を上げ、具体的な事例を出しながら紹介している。12章では認知療法の現状として、精神分析や行動療法との比較を行っている。

 元の書籍が出版されたのが随分前であり、現在の認知行動療法的アプローチとは違う部分も多いし、それらを解説している良著も沢山ある。また、具体的な介入法やセッションの進め方について学びたいのであれば

madoro-m.hatenablog.com

を読めばよい。

 しかし創始者による「心理療法の中で認知療法の立ち位置はどこにあるか」「認知療法の根底にはどのような考えがあるのか」といった解説がなされているのは大きく、認知行動療法に関わっている物であれば、必ず一読するべき一冊である。特に現在あまり語られなくなった「躁」の認知行動療法的理解の章は必見。

 

おすすめ度:85点

対象者:学部生・大学院生・臨床心理士・研究者(認知行動療法を実施・研究する者すべて)

認知療法―精神療法の新しい発展 (認知療法シリーズ)

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