心理学関連書籍レビューサイト

心理学に関する書籍の書評を行っています。

子ども~若年期の間で、言語能力と非言語能力に性差はあるか?

 最近出版されたIntelligence誌で面白い論文があったので紹介します。内容としては「認知能力に性差はあるか」という、昔から存在するあるあるネタなのですが、それに加えて発達上の変化を見ているのが面白い点です。言語能力・非言語能力に性差がある年齢はあるのでしょうか。あるとしたら、それは発達によってどのように変化していくのでしょうか。

 

Sex differences in non-verbal and verbal abilities in childhood and adolescence

 

序論:

・認知能力に関する性差の研究は数多く行われてきたが、その差は微々たるものであった

・メタ分析による言語・非言語能力の性差の検討も、結果が一貫していないことが多い

・大きな性差がある認知能力として空間認知があり(男性の方が得意)、生後3か月ごろから差が出現するとの報告も

・その原因として、テストステロンという性ホルモンが影響している可能性(しかし結果は一貫していない)

 

目的:

・言語能力と非言語能力において、2歳から16歳までの間に性差が存在するか?

→発達によってこれらの性差は変化するか?

 

方法:

主要な医学的診断がついていない、母国語が英語のイギリスの双子サンプル。サンプルサイズは各年代で4959名~14187名まで様々

WISCを始めとして、各年代によって言語・非言語能力は異なる検査が使われています。

 

結果:

・非言語能力・言語能力共に2、3、4歳時において有意な差が見られ、それ以外の年齢では差は見られなかった。

・ただその差はかなり小さく「無視出来る程度の」差である

 

とまぁ、こんな感じです。他にも双子研究ならではの諸々が性ホルモンの観点から検討されているので、興味のある人は読んでみてください。ただ、今の段階では「幼児期に認知能力の性差はほんの少しだけあるが無視できる程度であって発達とともに無くなっていく」というのが結論のようです。この辺りは

madoro-m.hatenablog.com

にも紹介されている結論と変わりないですね。つまり、現状として言語・非言語能力に性差は無いと言っても良いのではないでしょうか。ただ序論にあったように、空間認知能力はまだ議論の余地がありそうです。

 

また面白い(臨床に役立つ)論文があれば随時紹介していきます。

エビデンス 臨床心理学 認知行動理論の最前線

著者:

丹野 義彦 (著)

目次:

第1章 認知臨床心理学のフロンティア
第1部 抑うつの理論
第2章 ベックの認知療法と認知病理学
第3章 抑うつスキーマ論争とティーズデイルの抑うつ理論
第4章 認知アプローチの展開─アナログ研究とメタ分析
第5章 ベック理論への批判と抑うつ研究の最前線
第2部 不安障害の理論
第6章 パニック障害と空間恐怖の認知モデル
第7章 強迫性障害の認知モデル
第8章 対人恐怖の認知モデル
第3部 精神分裂病の理論
第9章 妄想の認知モデル
第10章 幻覚の認知モデル
第4部 まとめと今後の課題
第11章 エビデンス臨床心理学の構築に向けて

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学習の心理―行動のメカニズムを探る

著者:

実森 正子 (著), 中島 定彦 (著)

目次:

1 「学習」について学ぶ
1-1 学習とは
1-2 学習研究の方法
1-3 学習研究はどのように役立つか?
1-4 人間の学習と動物の学習
1-5 生得的行動
1-6 参考図書
2 馴化と鋭敏化
2-1 馴化
2-2 馴化現象を応用した知覚・認知研究
2-3 鋭敏化
2-4 参考図書
3 古典的条件づけ1:基本的特徴
3-1 古典的条件づけの獲得
3-2 刺激般化
3-3 条件づけの保持
3-4 情動反応の条件づけ
3-5 消去
3-6 外制止と脱制止
3-7 拮抗条件づけ
3-8 古典的条件づけに影響を及ぼす諸要因
3-9 参考図書
4 古典的条件づけ2:信号機能\r
4-1 複雑な古典的条件づけ
4-2 古典的条件づけにおける刺激性制御
4-3 刺激の情報価とレスコーラ=ワグナー・モデル
4-4 形態的学習と階層的学習
4-5 条件興奮と条件制止
4-6 随伴性空間と真にランダムな統制手続き
4-7 条件制止の検出
4-8 参考図書
5 古典的条件づけ3:学習の内容と発現システム
5-1 古典的条件づけで何が学習されるか?
5-2 反応の遂行
5-3 古典的条件づけの適応的意味
5-4 参考図書
6 オペラント条件づけ1:基礎
6-1 オペラント条件づけとは?
6-2 歴史的背景
6-3 オペラント条件づけの基礎
6-4 オペラント条件づけの普遍性
6-5 オペラント反応の形成
6-6 参考図書
7 オペラント条件づけ2:強化・消去と罰・強化スケジュール
7-1 強化
7-2 反応としての強化:プレマックの原理
7-3 反応頻度を減少させるオペラント条件づけ
7-4 消去
7-5 罰
7-6 強化スケジュール
7-7 強化スケジュール後の消去
7-8 複合強化スケジュール
7-9 参考図書
8 オペラント条件づけ3:刺激性制御
8-1 弁別
8-2 刺激般化
8-3 参考図書
9 概念学習・観察学習・問題解決
9-1 概念学習
9-2 観察学習
9-3 問題解決行動
9-4 参考図書
10 記憶と学習
10-1 記憶と学習
10-2 短期記憶
10-3 長期記憶
10-4 イメージの記憶
10-5 参考図書
11 引用文献
12 人名索引
13 事項索引
14 執筆者紹介

 

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新世代の認知行動療法

著者:

熊野宏昭 (著)

 

目次:

第1章 認知行動療法の多様性とその変遷
第2章 新世代の認知行動療法に共通するもの
第3章 本来のマインドフルネスとはどのようなものか
第4章 マインドフルネスはどのようにして実践するか
第5章 マインドフルネスストレス低減法・マインドフルネス認知療法
    ――構造化されたグループ療法でのマインドフルネスの活用
第6章 メタ認知療法(1)
    ――メタ認知の内容を変えることで認知の機能を変える
第7章 メタ認知療法(2)
    ――自己注目に対抗する注意訓練とディタッチト・マインドフルネス
第8章 臨床行動分析入門
    ――認知行動療法のもう一つのウィング
第9章 行動活性化療法
    ――機能と文脈の評価には行動することが必要
第10章 弁証法的行動療法(1)
    ――治療原理主導という力のもとに
第11章 弁証法的行動療法(2)
    ――臨床行動分析の発展における位置づけ
第12章 関係フレーム理論入門
    ――2つの言語行動の定義からみえてくるもの
第13章 アクセプタンス&コミットメント・セラピー
    ――機能的文脈主義の中で認知と行動をシームレスに扱う

 

 いわゆる第3世代の認知行動療法について紹介・解説を行なった概説書。内容としては、各療法の流れの基礎について1~2章で解説を行っている。具体的なプロトコルや事例は載っていないが、各療法が出てきた経緯や発展、今後の流れについてなど、一通りの基本は書かれている印象である。「第3世代の認知行動療法を学びたい」あるいは「最近流行っているけど、どういうものか覗いてやろう」という人にとっては良著である。

 1章で第3世代の認知行動療法が出現した経緯について、第1世代、第2世代の歴史を振り返りながら概説している。2章では、第3世代の認知行動療法において共通要素である「マインドフルネス」と「アクセプタンス」、そして「文脈」について各療法を引き合いに出しながら解説を行っている。3章では初学者には理解しにくい「マインドフルネス」という概念(状態)について、本来どのようなものであるかを、仏教の観点から解説している。4章ではマインドフルネスの実践編として、どのように実践を行っていくかを具体的な方法とともに紹介している。

 5章からは各療法の紹介と解説となる。5章ではマインドフルネスストレス低減法とマインドフルネス認知療法を浅く紹介している。ページ数や章立ての都合があったことは察するが、かなりページ数が少なく、解説もかなり早足である。この2つは第3世代の認知行動療法にとって歴史的意義が強いものであるたっめ、もう少し細かい説明があると良かった。6章と7章ではメタ認知療法について扱っている。メタ認知、S-REFモデル(Self-Regulatory Exective Function)、CAS(Cognitive Attentional Syndrome)といったメタ認知療法の基礎理論についてかなり詳細に扱っており、また注意訓練やディタッチド・マインドフルネスといった具体的介入法まで詳細に示されている。従来は全般性不安症への介入として注目を浴びて生きた本療法であるが、現在では抑うつ強迫症を始めとした様々な障害に対して有効であることが示されつつある。その基礎を学ぶ入門としては、この章を読むのはオススメである。

 8章では臨床行動分析を扱うが、ほぼ応用行動分析学的な解説で留まっており、やや物足りない。この解説を臨床行動分析と呼ぶのにはかなり苦しいものがある。9章では行動活性化療法、10章および11章では弁証法的行動療法を扱う。特に弁証法的行動療法の2章は基礎理論および具体的な介入法ともに詳細に記されており、メタ認知療法と同様、入門としては適切なレベルにあると思う。

 12章では関係フレーム理論についての解説が行われている。内容としては刺激等価性について紹介し、その流れで関係フレーム理論の解説が行われているのは当然であるが、本章だけ急に難易度が上がる。このあたりは行動分析学の知識がないと太刀打ち出来ないだろう。もし読むのが難しいと感じたのであれば

madoro-m.hatenablog.com

を一通り読むことを勧める。特に言語行動の章を理解できれば本章も問題なく読めるはずであるが、言語行動理論は行動分析学の根幹を理解できていないとサッパリ何を言っているかわからないかもしれない。そのため、行動分析学の知識が怪しい読者はこの書を必ず一読しておくように。13章はアクセプタンス&コミットメントセラピーについて、かなり駆け足で紹介している。初学者はこの章だけ読んでも、あまり理解できないかもしれない。

 

 筆者がまえがきで触れているように、単一の著者がこれほど広いテーマについて書いた著書というのはかなり珍しい印象を受ける。浅く広く初学者向けに紹介するという意味ではかなりの良著であることは間違い無いだろう。その一方で、章によって解説の量・質ともにばらつきが大きいことも確かである。また、筆者が元々認知療法の専門家であることも関係しているのだろうが、行動分析学の理解がやや怪しい箇所が散見される。しかしそれを差し引いても、良著であることに代わりはない。

 もしこれを読んで各療法に興味を持ったのであれば、各療法ごとに書籍が出版されているので、そちらを参照すべし。

 

おすすめ度:80点(章によってややばらつきあり)

対象者:学部生・大学院生・臨床心理士

 

新世代の認知行動療法

新世代の認知行動療法

 

 

 

よくわかる発達障害―LD・ADHD・高機能自閉症・アスペルガー症候群

著者:

小野 次朗 (編集), 藤田 継道 (編集), 上野 一彦 (編集)

 

目次:

1 発達障害の理解の手助けとなる基本的な事項
2 特別支援教育の理念とシステム
3 LD(学習障害)
4 ADHD(注意欠陥多動性障害)
5 広汎性発達障害(自閉症スペクトラム)
6 アセスメントのための心理検査
7 軽度知的障害への視点および発達障害に共通する対応法・支援

 

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