行動の基礎
著者:
小野 浩一 (著)
目次
第1部 行動についての基礎知識
1.序論
1-1 行動分析学のあらまし
1-2 行動についての考え方
2.人間は生体である
2-1 生体の行動
2-2 動物との連続性
2-3 社会的存在
3.行動は身体の変化である
3-1 身体器官
3-2 身体で生じていること―3つの事象レベル
3-3 「こころ」のありか
3-4 心理学の対象としての私的出来事
4.身体変化の原因は環境にある
4-1 内的原因か環境か
4-2 なぜ原因を環境に求めるのか
4-3 身体変化は生体全体の連鎖的出来事である
5.3種類の環境変化がある
5-1 生体の状態を変える環境変化
5-2 行動のきっかけとなる環境変化
5-3 行動の後に生じる環境変化
6.2種類の行動がある
6-1 レスポンデント行動とオペラント行動
6-2 2種類の行動の起源と生物学的制約
6-3 レスポンデント行動とオペラント行動の具体例
第2部 レスポンデント行動
7.レスポンデント条件づけ
7-1 レスポンデント行動の学習はどのようにして起きるか
7-2 パブロフの条件反射
7-3 レスポンデント条件づけの決定因
7-4 情動反応の条件づけ
8.レスポンデント条件づけの諸現象
8-1 保持と消去
8-2 般化と弁別
8-3 複合刺激によるレスポンデント条件づけ
9.レスポンデント条件づけの新しい考え方
9-1 反応がなくてもレスポンデント条件づけは起きる
9-2 対提示の反復がなくても条件づけは起きる
9-3 すべての刺激がCSになるわけではない
9-4 レスポンデント条件づけの適用範囲の拡大
第3部 オペラント行動
10.オペラント条件づけ
10-1 オペラント行動の学習はどのようにして起きるか
10-2 オペラント条件づけの初期の研究
10-3 行動随伴性
11.行動の獲得と維持、消去
11-1 新しい行動の獲得―シェイピング
11-2 行動の維持―基本的強化スケジュール
11-3 消去
12.複雑な強化スケジュール
12-1 オペラントクラスと行動次元
12-2 分化強化―結果による選択
12-3 複合強化スケジュール
12-4 行動の連鎖化
13.負の強化―逃避行動と回避行動
13-1 負の強化に関する古典的研究
13-2 逃避条件づけの諸現象
13-3 回避条件づけとその理論
14.弱化
14-1 正の弱化
14-2 負の弱化
14-3 罰的方法の使用に関する諸問題
15.先行刺激によるオペラント行動の制御
15-1 刺激性制御の基礎
15-2 刺激性制御の諸現象
15-3 高次の刺激性制御
16.言語行動
16-1 言語行動の基本的特徴
16-2 言語行動の獲得
16-3 言葉の「意味」と「理解」
16-4 日常言語行動の特徴
16-5 言語刺激による行動の制御
第4部 オペラント行動研究の展開
17.選択行動
17-1 並立スケジュールによる選択行動の研究
17-2 並立連鎖スケジュールによる選択行動の研究
18.迷信行動
18-1 行動に依存しない随伴性のもとでの迷信行動
18-2 行動に依存する随伴性のもとでの迷信行動
18-3 人間社会と迷信行動
19.社会的行動
19-1 社会的随伴性
19-2 模倣行動
19-3 協力行動と競争行動
19-4 行動における個体差
20.研究と実践の統合
20-1 応用行動分析学
20-2 単一被験体法による研究デザイン
図表出典
引用文献一覧
索引
日本で一番有名な実験的行動分析学の書。実験的行動分析学の基礎的な内容は全て解説されており、実験的行動分析学だけでなく、応用行動分析学を学ぶものも必ず読むことを勧める。
1章から4章までは、行動分析学に入る前の、基礎的な内容及び哲学について触れている。「行動とは何か?」「生体とは何か?」などをしっかりと扱う。これらを理解することで行動分析学の理解がさらに深いものとなる。
5章では行動分析学において一番基本となる「環境変化」についての説明がなされている。確立操作的な機能を果たす環境変化(嫌悪化や飽和化など)、行動のきっかけとなる環境変化(誘発刺激と弁別刺激)、行動に後続する環境変化(強化子と弱化子)の基礎を解説している。
6章ではオペラント行動とレスポンデント行動の違いについて解説をした後、7~9章ではレスポンデント条件づけの基礎から最新の知見までを紹介している。行動分析学の書籍ではレスポンデント行動の解説はやや少なくなるのが常であるが、本書はしっかりと細部まで触れており、初めて知る現象や枠組も多いかもしれない。応用的な意味ではレスポンデント条件づけは曝露療法など使用頻度も高いため、理解しておくことは重要である。もしレスポンデント条件づけ(古典的条件づけ)をより理解したければ
を読むことを勧める。入門書として定評のある学習心理学の書籍であり、行動分析学の復習にも繋がるだろう。
10章からはオペラント行動の解説に入る。10章では行動分析学の基本的な考え方である三項随伴性の解説と歴史に関して述べ、11章では獲得及び消去、12章では強化スケジュールに関する解説がされている。13章は負の強化、14章は弱化、15章は刺激性制御と行動分析学で主に扱われてきた諸現象について実験的行動分析学の研究を紹介しながら概説している。
16章からはやや応用的な分野として言語行動(16章)、選択行動(17章)、迷信行動(18章)、社会的行動(19章)を扱い、これらの諸研究について紹介している。20章では研究と実践の統合と題して、応用行動分析学と一事例実験の研究法に関する紹介がなされている。
先にも述べたが、実験的行動分析学の理解は応用行動分析学を理解・実施するために必要不可欠である。また認知行動療法においても行動分析学の諸手続きを使用することがある。最近流行りのアクセプタンス&コミットメントセラピーの根幹となる学問であるため、そちらに興味のある人もぜひ一読してほしい。行動分析学はとっつきにくい、あるいは難解であると認識されることも多いし、「臨床上の諸問題を適切に扱えない」とする誤解もまだまだ広がっている。そのような誤解を晴らすためにも本書をぜひ読んでいただきたい。もしそのような人がこの本を読み内容を理解すれば、今までの介入や見立てがどれほど陳腐なものだったかを実感すると同時に、自分が考えなければならないことがたくさん出てくることに気づくはずである。応用は基礎の上に成り立っていることを改めて感じてみてはいかがだろうか。臨床家が読んで損は無い、そう言い切れるほどの名著である。
おすすめ度:100点
対象者:学部生・大学院生・臨床心理士