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新世代の認知行動療法

著者:

熊野宏昭 (著)

 

目次:

第1章 認知行動療法の多様性とその変遷
第2章 新世代の認知行動療法に共通するもの
第3章 本来のマインドフルネスとはどのようなものか
第4章 マインドフルネスはどのようにして実践するか
第5章 マインドフルネスストレス低減法・マインドフルネス認知療法
    ――構造化されたグループ療法でのマインドフルネスの活用
第6章 メタ認知療法(1)
    ――メタ認知の内容を変えることで認知の機能を変える
第7章 メタ認知療法(2)
    ――自己注目に対抗する注意訓練とディタッチト・マインドフルネス
第8章 臨床行動分析入門
    ――認知行動療法のもう一つのウィング
第9章 行動活性化療法
    ――機能と文脈の評価には行動することが必要
第10章 弁証法的行動療法(1)
    ――治療原理主導という力のもとに
第11章 弁証法的行動療法(2)
    ――臨床行動分析の発展における位置づけ
第12章 関係フレーム理論入門
    ――2つの言語行動の定義からみえてくるもの
第13章 アクセプタンス&コミットメント・セラピー
    ――機能的文脈主義の中で認知と行動をシームレスに扱う

 

 いわゆる第3世代の認知行動療法について紹介・解説を行なった概説書。内容としては、各療法の流れの基礎について1~2章で解説を行っている。具体的なプロトコルや事例は載っていないが、各療法が出てきた経緯や発展、今後の流れについてなど、一通りの基本は書かれている印象である。「第3世代の認知行動療法を学びたい」あるいは「最近流行っているけど、どういうものか覗いてやろう」という人にとっては良著である。

 1章で第3世代の認知行動療法が出現した経緯について、第1世代、第2世代の歴史を振り返りながら概説している。2章では、第3世代の認知行動療法において共通要素である「マインドフルネス」と「アクセプタンス」、そして「文脈」について各療法を引き合いに出しながら解説を行っている。3章では初学者には理解しにくい「マインドフルネス」という概念(状態)について、本来どのようなものであるかを、仏教の観点から解説している。4章ではマインドフルネスの実践編として、どのように実践を行っていくかを具体的な方法とともに紹介している。

 5章からは各療法の紹介と解説となる。5章ではマインドフルネスストレス低減法とマインドフルネス認知療法を浅く紹介している。ページ数や章立ての都合があったことは察するが、かなりページ数が少なく、解説もかなり早足である。この2つは第3世代の認知行動療法にとって歴史的意義が強いものであるたっめ、もう少し細かい説明があると良かった。6章と7章ではメタ認知療法について扱っている。メタ認知、S-REFモデル(Self-Regulatory Exective Function)、CAS(Cognitive Attentional Syndrome)といったメタ認知療法の基礎理論についてかなり詳細に扱っており、また注意訓練やディタッチド・マインドフルネスといった具体的介入法まで詳細に示されている。従来は全般性不安症への介入として注目を浴びて生きた本療法であるが、現在では抑うつ強迫症を始めとした様々な障害に対して有効であることが示されつつある。その基礎を学ぶ入門としては、この章を読むのはオススメである。

 8章では臨床行動分析を扱うが、ほぼ応用行動分析学的な解説で留まっており、やや物足りない。この解説を臨床行動分析と呼ぶのにはかなり苦しいものがある。9章では行動活性化療法、10章および11章では弁証法的行動療法を扱う。特に弁証法的行動療法の2章は基礎理論および具体的な介入法ともに詳細に記されており、メタ認知療法と同様、入門としては適切なレベルにあると思う。

 12章では関係フレーム理論についての解説が行われている。内容としては刺激等価性について紹介し、その流れで関係フレーム理論の解説が行われているのは当然であるが、本章だけ急に難易度が上がる。このあたりは行動分析学の知識がないと太刀打ち出来ないだろう。もし読むのが難しいと感じたのであれば

madoro-m.hatenablog.com

を一通り読むことを勧める。特に言語行動の章を理解できれば本章も問題なく読めるはずであるが、言語行動理論は行動分析学の根幹を理解できていないとサッパリ何を言っているかわからないかもしれない。そのため、行動分析学の知識が怪しい読者はこの書を必ず一読しておくように。13章はアクセプタンス&コミットメントセラピーについて、かなり駆け足で紹介している。初学者はこの章だけ読んでも、あまり理解できないかもしれない。

 

 筆者がまえがきで触れているように、単一の著者がこれほど広いテーマについて書いた著書というのはかなり珍しい印象を受ける。浅く広く初学者向けに紹介するという意味ではかなりの良著であることは間違い無いだろう。その一方で、章によって解説の量・質ともにばらつきが大きいことも確かである。また、筆者が元々認知療法の専門家であることも関係しているのだろうが、行動分析学の理解がやや怪しい箇所が散見される。しかしそれを差し引いても、良著であることに代わりはない。

 もしこれを読んで各療法に興味を持ったのであれば、各療法ごとに書籍が出版されているので、そちらを参照すべし。

 

おすすめ度:80点(章によってややばらつきあり)

対象者:学部生・大学院生・臨床心理士

 

新世代の認知行動療法

新世代の認知行動療法