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IQってホントは何なんだ?

著者:

村上 宣寛

 

目次:

第1章 知能とは何か
第2章 知能を測る
第3章 知能は幾つあるのか
第4章 新しい知能理論
第5章 知能テストはどのようなものか
第6章 頭の大きさと回転の速さ
第7章 年をとると知能は衰えるのか
第8章 遺伝で知能が決まるか
第9章 知能の人種差と男女差
第10章 知能テストと勤務成績

 

 

 心理アセスメントが専門の村上先生による、知能に関する現在の研究動向をまとめ、知能とは何かを、専門家だけでなく心理学を専門としない一般読者にも向けて書かれている。注意点としては、いわゆる「知能検査の解釈本」ではないため、そのような目的で読まれることはお勧めしない。解釈本では例えば

madoro-m.hatenablog.com

が良い。

 第1章では知能とは何かについて、過去の先行研究や辞典などを参照しつつ、解説している。今でも「知能とは知能検査で測られるものだ」という言葉が(馬鹿にする意味で)使われるが、現在の知能研究ではその定義には批判的であることは認識しておくように。2章では知能の測定について、どのような経緯を経て現在のような知能検査になったかを細かに解説している。知能検査の歴史については他書でも述べられることが多いが、ここまで綿密に紹介されている和書は数少ない。3章では知能理論についての歴史を概観し「知能が何因子構造であるか」に焦点を当て解説している。4章では現在の知能理論としてCHC(キャテル・ホーン・キャロル)理論、ガードナーの多重知能理論、スタンバーグの三頭理論について紹介し、解説を行っている。この3つについて、日本語で解説されている書籍は数少ないため、とても貴重である。5章は知能検査の紹介として、WAISやWISCなどの検査がどのような知能を測定しているのかを、著者作の本検査と似た問題を用いて解説している。

 6章からは、知能理論とは少し離れて、知能研究について概観を行っている。6章では頭の大きさ、7章では発達(加齢)、8章では遺伝、9章では人種・性差、10章では勤務成績と知能の関係について、先行研究を取り上げながら、研究法や分析法に至るまで丁寧に解説を行っている。

 本書は和書では数少ない「知能」の本である。本書は知能に関する一般的な知識の向上を目指すというのが表向きのコンセプトだろうが、読めばわかる通り本当の狙いは「日本の知能研究の少なさへの警鐘」だ。知能検査は多くの臨床場面で使用されているが、検査に関する国内での研究は少なく、巷で広まっている理解や解釈は海外のものを単純に当てはめているだけである。この本を読み、知能研究者が一人でも増え、日本における知能研究がより発展することを祈る。また、知能検査を実施・解釈を行う立場の人の中で本書の内容を理解している者はどれくらいいるだろうか。本書は読んで検査の実施や所見が上達するようなものではない。しかし、自分が行っている検査がどのような背景から成立しているのかは知っておく必要があるだろう。知能を扱う者は必ず一読すること。

 

おすすめ度:80点

対象者:臨床心理士

IQってホントは何なんだ?

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