心理アセスメントレポートの書き方
著者
目次
第1章 はじめに
第2章 レポートを書く技術
第3章 相談内容と背景情報
第4章 行動観察
第5章 検査結果と解釈
第6章 診断(見立て)と要約
第7章 指針
第8章 レポートの作成に関する特別な事項
第9章 ケースレポート事例
資料 新しい心理検査情報について(日本の読者のために)
付録 テスト情報
知能検査界隈では評判高い、エッセンシャルシリーズの第一作。本書のテーマは題名通り「心理アセスメントレポートの書き方」という、今までありそうで無かった、そして現実的に需要の高いテーマである。
1章では、改めて「心理アセスメントレポート」(日本で言うところの所見に近い)の目的について様々な観点を紹介しながら、それらに共通する「必須事項」について解説している。良い所見とはどのようなものか、悪い所見とはどのようなものかが体系立てて丁寧に書かれており、どのように所見を書くべきか即座に理解できる。また検査結果をどうクライエントや協働相手に合わせて書くかも丁寧に解説されている。今まで「結果の数値とありきたりな解釈文」のみを書いている者(このような書き方は本章でも批判されているが)は、本章を読むだけでもこれから書く所見の内容が大きく変わるのではないか。また、様々な情報を載せる上で、所見に一貫性を持たせる方法も述べられている。
2章ではレポートを書く技術として具体的に文章を書くときの注意点(簡潔に書く、あいまいな言葉を使わない、専門用語の使用を避ける、など)や書き終わった後のチェックなど、実務的にとても重要な点を解説している。
3章からは具体的な心理アセスメントレポートの中身として、どのような内容を書けば良いのかが詳細に書かれている。まず主訴と背景情報の書き方として、検査を始める前に知る必要のある問題歴や生育歴、相談内容や過去の検査歴の扱い方が述べられ、更にそれらの情報をどのように所見に活用するかが実例も踏まえながら書かれている。これらの情報を面接で聞くための評価シートも紹介されている。心理臨床実践の現場において実際に書く所見にこのような情報を載せることは多くないとは思うが、所見の方向性を決めるためにはかなり重要であると思う。
4章では行動観察として、検査中の行動をどのように所見で触れるかを、外見やラポールの形成しやすさといった具体的な項目とともに解説している。かなり詳細に観察ポイントが列挙されておりチェックリストとしても価値がある。また、それらの情報を所見の中でどのように位置づけていくかも解説されている。
5章では、実施した検査の結果とその解釈を書く際の具体的手順について紹介されている。結果にテーマ性をもたせる、得点の報告と解釈は読み手に合わせてわかりやすく、複数の検査結果が異なることを示していた場合にどう書けば良いのかなど、実務上迷いやすい箇所に焦点が絞られて解説がなされている。知能検査における所見の書き方であれば
といった書籍にも書かれているが、本書はどのような検査でも応用可能なように書かれていること、検査特有の得点や解釈の詳細には突っ込まず「得点ではなく受検者に焦点を当てる」ことが主眼である。そのため、具体的な各検査特有の解釈法などは他書やマニュアルを参照する必要がある。
6章では見立てと要約として、検査の結果どのような見立てが考えられるのか、それはどのような理由からかと言った点が述べられている。7章では指針として、得られた結果を介入にどのように活かしていくかという「今後についての文章」をどのように書くかが解説されている。具体的に、指針の節に書く必要のある8つの項目を挙げ、これらの項目をどのように所見に織り込むかが述べられている。また、算数・読み書き・社会性といった問題が見られる場合の配慮を求める文書の書き方についても実例を踏まえながら詳細に紹介されており、実際に書く際の参考になる。
8章はその他の点として、検査のフィードバックやアセスメントにおける倫理的な注意点などが紹介されている。9章は事例として4名の所見について実例が紹介されている。
本書は検査を行い所見を書く者にとって必読書であり、書く際に手元においておきたい一冊でもある。書く必要のある具体的項目や注意点も詳細に書かれており、本書を読んだか否かで所見の質が大きく異なるであろう。
一つ気になる点としては、「心理アセスメントレポート」と銘打ちながら、内容はほぼ「知能検査の所見の書き方」になっている点であろうか。ただ、ここで書かれている内容は他の検査でも応用可能であり(9章の事例では数多くの検査結果を総合したレポートになっている)、「知能検査所見だけで使える書き方テクニック集」にはなっていない。
本書で重要視している点は小手先のテクニックではなく「なぜ心理アセスメントレポートを書くのか」といった、そもそも論であろう。この点が明確であるレポートは良いレポート、そうでないレポートは悪いレポート、という著者らのメッセージ性が強い一冊である。実際、一度でもレポートや所見を書いたことがある人であれば「この情報は載せるべきか」「この結果をどう解釈したら良いか」悩んだことがあるだろう。その時に、本書で重要視されている「アセスメントレポートの意義」を思い出すと、一歩進んだ良いレポートとなるはずである。
実際にアセスメントレポートや所見を書いている人、あるいはこれから書く人は必読である。
おすすめ度:100点
対象者:大学院生(臨床)~心理士(特に、検査の所見やレポートを書く人)
- 作者: エリザベス・O.リヒテンバーガー,ネイディーン・L.カウフマン,アラン・S.カウフマン,ナンシーマザー,Elizabeth O. Lichtenberger,Alan S. Kaufman,Nadeen L. Kaufman,Nancy Mather,上野一彦,染木史緒
- 出版社/メーカー: 日本文化科学社
- 発売日: 2008/10/01
- メディア: 単行本
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