心理学関連書籍レビューサイト

心理学に関する書籍の書評を行っています。

子ども~若年期における、不確かさへの耐性の無さと不安、心配の関係について

 本日は、不確かさへの耐性の無さ(Intolerance of Uncertainty、以下IU)と不安、心配の関係性に関するメタ分析論文がacceptされて早期公開されているようなので、取り上げてみたいと思います。紹介されている論文で引用されているIUの定義を抜き出すと「明瞭な手がかりの不在や不十分な情報の存在といった不確かさの知覚によって生じる嫌悪的な刺激への耐える能力の無さ」という感じになるでしょうか。要するに「曖昧な状況・十分な情報が無い・少しでも見通しが立たない」への苦手さに関する個人差ですね。

 IUは日本ではまだあまり有名ではありませんが、心配と強く関係することが示されており、全般性不安症を形成する基盤ともされています。全般性不安症に対する認知行動療法において治療標的にされることも多いです(この辺りも記事にしたいですね)。今回紹介する論文は、IUと心配、そして不安の関係について研究が進んだこともあり、メタ分析で改めて見てみようじゃないか、というものです。ちなみに、メタ分析の方法論の細かい点や出版バイアスの検討に関しては本記事の目的と少し逸れるため割愛いたしました。気になった方はご自身で論文を確認いただければと思います。また、メタ分析研究の方法論詳細について知りたい人は 

メタ分析入門: 心理・教育研究の系統的レビューのために

メタ分析入門: 心理・教育研究の系統的レビューのために

 
はじめてのメタアナリシス (臨床家のための臨床研究デザイン塾テキスト)

はじめてのメタアナリシス (臨床家のための臨床研究デザイン塾テキスト)

 

 

新版 メタ・アナリシス入門 ─エビデンスの統合をめざす統計手法─ (医学統計学シリーズ)
 

 

の3冊がわかりやすいかなぁと思います。上2つは初心者向き、最後の丹後本は上級者向けです(紹介記事も書きたいですね)。

 

紹介論文:

Intolerance of Uncertainty, anxiety, and worry in children and adolescents: A meta-analysis - ScienceDirect

 

序論:

・IUは心配や全般性不安症の基礎概念として知られており、実証研究も多いが、近年うつなどの他の精神障害者も高く、多様な障害の根本概念なのではないかと考えられるようになった。

・実際、メタ分析においてもIUの高さは全般性不安症・強迫症・大うつ病性障害の3つの障害を有する者において高い値であった(大うつ病性障害はDSM-5では名称が消えたが、訳のためそのまま記載)。また、他の研究でもうつや不安と強く関係することが示されてきた。

・IUと不安・心配の関係については成人ではよく検証されているが、若年者の結果を統合したものはまだない。

=メタ分析

 

結果:

・IUと不安の平均効果量は r = .60と大きな効果量であり、不安の分散の36%をIUで説明できる。

・IUと心配の平均効果量は r = .63と大きな効果量であり、心配の分散の39.63%をIUで説明できる。

=子ども~若年者においても、成人と同様にIUと不安、心配とは強い相関関係がある

 

 この結果から、成人だけでなく、子どもや若年者においてもIUは不安や心配と強く関連していることが示されました。序論内でも紹介されていましたが、子どもでもIUの個人差はあり、今回の結果を踏まえても基礎モデルは成人と大きく変わらないようです。一方、limitationにも書かれていますが、今回のメタ分析はIUと不安の相関関係だけであったり、IUの測定が質問紙のみであることなど、工夫が必要な点はいくつもあります。今後、さらにIU研究が進むことを知見ユーザーとして祈っています。

子ども~若年期の間で、言語能力と非言語能力に性差はあるか?

 最近出版されたIntelligence誌で面白い論文があったので紹介します。内容としては「認知能力に性差はあるか」という、昔から存在するあるあるネタなのですが、それに加えて発達上の変化を見ているのが面白い点です。言語能力・非言語能力に性差がある年齢はあるのでしょうか。あるとしたら、それは発達によってどのように変化していくのでしょうか。

 

Sex differences in non-verbal and verbal abilities in childhood and adolescence

 

序論:

・認知能力に関する性差の研究は数多く行われてきたが、その差は微々たるものであった

・メタ分析による言語・非言語能力の性差の検討も、結果が一貫していないことが多い

・大きな性差がある認知能力として空間認知があり(男性の方が得意)、生後3か月ごろから差が出現するとの報告も

・その原因として、テストステロンという性ホルモンが影響している可能性(しかし結果は一貫していない)

 

目的:

・言語能力と非言語能力において、2歳から16歳までの間に性差が存在するか?

→発達によってこれらの性差は変化するか?

 

方法:

主要な医学的診断がついていない、母国語が英語のイギリスの双子サンプル。サンプルサイズは各年代で4959名~14187名まで様々

WISCを始めとして、各年代によって言語・非言語能力は異なる検査が使われています。

 

結果:

・非言語能力・言語能力共に2、3、4歳時において有意な差が見られ、それ以外の年齢では差は見られなかった。

・ただその差はかなり小さく「無視出来る程度の」差である

 

とまぁ、こんな感じです。他にも双子研究ならではの諸々が性ホルモンの観点から検討されているので、興味のある人は読んでみてください。ただ、今の段階では「幼児期に認知能力の性差はほんの少しだけあるが無視できる程度であって発達とともに無くなっていく」というのが結論のようです。この辺りは

madoro-m.hatenablog.com

にも紹介されている結論と変わりないですね。つまり、現状として言語・非言語能力に性差は無いと言っても良いのではないでしょうか。ただ序論にあったように、空間認知能力はまだ議論の余地がありそうです。

 

また面白い(臨床に役立つ)論文があれば随時紹介していきます。

エビデンス 臨床心理学 認知行動理論の最前線

著者:

丹野 義彦 (著)

目次:

第1章 認知臨床心理学のフロンティア
第1部 抑うつの理論
第2章 ベックの認知療法と認知病理学
第3章 抑うつスキーマ論争とティーズデイルの抑うつ理論
第4章 認知アプローチの展開─アナログ研究とメタ分析
第5章 ベック理論への批判と抑うつ研究の最前線
第2部 不安障害の理論
第6章 パニック障害と空間恐怖の認知モデル
第7章 強迫性障害の認知モデル
第8章 対人恐怖の認知モデル
第3部 精神分裂病の理論
第9章 妄想の認知モデル
第10章 幻覚の認知モデル
第4部 まとめと今後の課題
第11章 エビデンス臨床心理学の構築に向けて

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