臨床心理学キーワード [補訂版]
テストや入試対策本としては良い
心理学はもちろんのこと、様々な学問領域で絶大な人気を誇る有斐閣キーワードシリーズの臨床心理学版。大きさは文庫本サイズと小さいが、臨床心理学内にある多くの分野を網羅し解説を行っている。しかし本シリーズの特色でもあるのだが、網羅性を高めたために具体的な領域や分野に関する説明はほとんどない(各分野につき、1~4ページ程度である)。そのため本書の使用法は辞典としての活用程度しか見込めない点は注意が必要である。
1章では臨床心理学の基礎理論として精神分析から認知行動理論まで多様な基礎理論を見開き1ページ程度で紹介している。心理学だけでなく、隣接分野の精神医学や薬理学の解説もなされている。
2章ではアセスメントの解説として発達診断や行動観察法、心理検査といった、全体論について述べられている。3章からは具体的な心理検査の紹介として性格検査・知能検査・発達検査・症状評価検査について紹介されている。この2章を読んで心理検査を実施できたり良い所見を書くことはできない。上述の通り、あくまでも辞典的な使用しかできない。具体的な検査の紹介および解説は、神経心理学検査は
知能検査は
といった専門の書籍を読むことを勧める。また所見の書き方については
の本がオススメである。
4章では治療法として、精神分析や認知行動療法、ブリーフセラピーや家族療法といった有名所だけでなく、近年流行の兆しがある対人関係療法など多様な治療法が紹介されている。5章では障害と診断として、DSM-Ⅳ-TRの診断に従った各診断について紹介がなされている。6章では臨床心理学の実践領域として学校の教育相談や学生相談、電話相談、家庭裁判所など臨床心理士が従事することの多い現場について紹介がされている。
7章は臨床心理学の研究として、事例研究法や行動観察、質問紙法など多くのの研究法について解説がなされている。8章では今後臨床心理士の活躍が望まれる領域として、異文化カウンセリングや地域精神保健、危機介入などの分野を取り上げ、紹介されている。
先に述べたとおり、各分野の説明はかなり簡略化されており「実践の勉強になる」ような本ではない。かといって全くの心理学初心者向けの入門書としても網羅的・簡略化されすぎて使いにくいのが本音だろう。臨床心理学の入門書としては
の方がオススメである。本書の網羅性はそのままに、具体的な内容も丁寧に解説されており、入門書としてはかなり質が高い。
その一方で本書は、網羅的な知識が求められる授業の試験、大学院入試や臨床心理士試験には重宝するかもしれない。ひょっとすると現状は「試験前にあまり詳しくない領域の知識を埋める」「試験前の復習」に特化した書籍扱いになっているのかもしれない。大学の「臨床心理学」の授業試験対策にはとても有用となるだろう。その一方で、大学院入試はともかく臨床心理士試験を受けるような者が本書に書かれていることを「ふむふむ」と読まれても困るのだが・・・(そのような者は現場に出るに辺り臨床心理学の知識が大幅に不足していることを心に留めておくように)。
おすすめ度:70点(試験対策本としては95点)
対象者:学部生・大学院試験・臨床心理士試験
臨床心理学キーワード (有斐閣双書―KEYWORD SERIES)
- 作者: 坂野雄二
- 出版社/メーカー: 有斐閣
- 発売日: 2005/10/01
- メディア: 単行本
- 購入: 4人 クリック: 40回
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著者:
坂野 雄二 (編集)
目次:
1章 臨床心理学の基礎理論
2章 臨床心理学的アセスメントの意義
3章 心理検査法の実際
4章 さまざまな治療法
5章 さまざまな障害と診断
6章 臨床心理学の場
7章 臨床心理学の研究法
8章 臨床心理学の課題