日本版WAIS-Ⅲの解釈事例と臨床研究
筆者
藤田 和弘 (著, 編集), 大六 一志 (編集), 山中 克夫 (編集), 前川 久男 (編集)
目次
第1部 WAIS‐3の理論的背景とアセスメントの進め方(WAISの変遷と理論的背景
WAIS‐3の検査結果を解釈する手順
WAIS‐3によるアセスメントレポートの書き方)
第2部 WAIS‐3によるアセスメント事例(精神科医療領域
高次脳機能リハビリテーション領域
老年医療領域
高等教育・就労領域)
第3部 WAIS‐3による臨床研究(簡易実施法
WAIS‐3から見た臨床群の特徴)
付録(仮説を採択するための根拠(背景情報等)
用語解説(測定用語))
日本では唯一のWAIS-Ⅲに関する専門書。
最初の数ページで知能検査の歴史や現在の動向をまとめ、その後は具体的にどのように結果を算出し、その結果をどう解釈していけばいいかを解説している。各群指数の説明にとどまらず、補助検査の解釈や、他の媒体から既に得られている情報とどう統合するかといった所見を書く上で不可欠な部分も詳細にかかれている。また、言語性・動作性IQは不要であるとWAIS-Ⅲ開発メンバーが言及している点も見逃せない(WISCではとっくの昔に言われている。未だ言語性・動作性を解釈に使っている人は至急この本を読むように)。
アセスメントレポートの書きかたもややあっさり目ではあるが書かれている。事例は8つ載っているが、やや領域が特殊でそのまま使えるようなものではないため、あくまでも書き方のお手本として使えるだろう。アセスメントレポートの書き方については、この本
が詳しいので、こちらを参照した方が良いだろう。
最後には「複数回行なったときの影響」や「簡易版の実施法および採点」「臨床群のプロフィール」といったこの本ならでは(というより、開発メンバーだからこそ書ける)の内容も書かれており、WAIS-Ⅲを使う人間であれば、読んで損になることは一つもない。
一つ気になる点は、プロフィール分析である。この本では群指数だけでなく、各検査で測定されている概念の共通項(たとえば「視覚-運動協応」や「情報の符号化」など)をまとめた「プロフィール分析」と呼ばれるもの(いわゆるプロフィール分析ではなく、本書内でも述べられているように群指数以外で検査結果に影響を与えている「能力や影響因」の探索である)が載っており、かつ具体的に所見に書くための基準まで整備されている。しかしこのプロフィール分析が「どうしてこの基準になったのか」「そもそも各検査でこれらが本当に影響しているのか」に関する説明はまったくなく、本書に書かれていることを鵜呑みにするのはあまりよくないと思う。また、プロフィール分析の内容もやや古くわかりにくい。そのため、解釈に使用する際に有用であるとは自信を持って言える段階にはまだ無いと思われる。ただ、このような試みを試験的に行なったことは評価できるし、今後の研究が待たれる部分であろう。あと、最後のページにおまけのように載っている、日常生活と各能力との対応表は、必見。
まとめ
検査を取る人だけでなく、検査を診る人にも必携の一冊である。内容は十分であるが、情報が少しばかり古くなってきたのと、やや値段が高いのがネックか。
おすすめ度:75点(WAISを使う人は100点)