子ども~若年期における、不確かさへの耐性の無さと不安、心配の関係について
本日は、不確かさへの耐性の無さ(Intolerance of Uncertainty、以下IU)と不安、心配の関係性に関するメタ分析論文がacceptされて早期公開されているようなので、取り上げてみたいと思います。紹介されている論文で引用されているIUの定義を抜き出すと「明瞭な手がかりの不在や不十分な情報の存在といった不確かさの知覚によって生じる嫌悪的な刺激への耐える能力の無さ」という感じになるでしょうか。要するに「曖昧な状況・十分な情報が無い・少しでも見通しが立たない」への苦手さに関する個人差ですね。
IUは日本ではまだあまり有名ではありませんが、心配と強く関係することが示されており、全般性不安症を形成する基盤ともされています。全般性不安症に対する認知行動療法において治療標的にされることも多いです(この辺りも記事にしたいですね)。今回紹介する論文は、IUと心配、そして不安の関係について研究が進んだこともあり、メタ分析で改めて見てみようじゃないか、というものです。ちなみに、メタ分析の方法論の細かい点や出版バイアスの検討に関しては本記事の目的と少し逸れるため割愛いたしました。気になった方はご自身で論文を確認いただければと思います。また、メタ分析研究の方法論詳細について知りたい人は
はじめてのメタアナリシス (臨床家のための臨床研究デザイン塾テキスト)
- 作者: 野口善令,福原俊一
- 出版社/メーカー: 特定非営利活動法人 健康医療評価研究機構
- 発売日: 2012/03/30
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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新版 メタ・アナリシス入門 ─エビデンスの統合をめざす統計手法─ (医学統計学シリーズ)
- 作者: 丹後俊郎
- 出版社/メーカー: 朝倉書店
- 発売日: 2016/02/19
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の3冊がわかりやすいかなぁと思います。上2つは初心者向き、最後の丹後本は上級者向けです(紹介記事も書きたいですね)。
紹介論文:
序論:
・IUは心配や全般性不安症の基礎概念として知られており、実証研究も多いが、近年うつなどの他の精神障害者も高く、多様な障害の根本概念なのではないかと考えられるようになった。
・実際、メタ分析においてもIUの高さは全般性不安症・強迫症・大うつ病性障害の3つの障害を有する者において高い値であった(大うつ病性障害はDSM-5では名称が消えたが、訳のためそのまま記載)。また、他の研究でもうつや不安と強く関係することが示されてきた。
・IUと不安・心配の関係については成人ではよく検証されているが、若年者の結果を統合したものはまだない。
=メタ分析
結果:
・IUと不安の平均効果量は r = .60と大きな効果量であり、不安の分散の36%をIUで説明できる。
・IUと心配の平均効果量は r = .63と大きな効果量であり、心配の分散の39.63%をIUで説明できる。
=子ども~若年者においても、成人と同様にIUと不安、心配とは強い相関関係がある
この結果から、成人だけでなく、子どもや若年者においてもIUは不安や心配と強く関連していることが示されました。序論内でも紹介されていましたが、子どもでもIUの個人差はあり、今回の結果を踏まえても基礎モデルは成人と大きく変わらないようです。一方、limitationにも書かれていますが、今回のメタ分析はIUと不安の相関関係だけであったり、IUの測定が質問紙のみであることなど、工夫が必要な点はいくつもあります。今後、さらにIU研究が進むことを知見ユーザーとして祈っています。
子ども~若年期の間で、言語能力と非言語能力に性差はあるか?
最近出版されたIntelligence誌で面白い論文があったので紹介します。内容としては「認知能力に性差はあるか」という、昔から存在するあるあるネタなのですが、それに加えて発達上の変化を見ているのが面白い点です。言語能力・非言語能力に性差がある年齢はあるのでしょうか。あるとしたら、それは発達によってどのように変化していくのでしょうか。
Sex differences in non-verbal and verbal abilities in childhood and adolescence
序論:
・認知能力に関する性差の研究は数多く行われてきたが、その差は微々たるものであった
・メタ分析による言語・非言語能力の性差の検討も、結果が一貫していないことが多い
・大きな性差がある認知能力として空間認知があり(男性の方が得意)、生後3か月ごろから差が出現するとの報告も
・その原因として、テストステロンという性ホルモンが影響している可能性(しかし結果は一貫していない)
目的:
・言語能力と非言語能力において、2歳から16歳までの間に性差が存在するか?
→発達によってこれらの性差は変化するか?
方法:
主要な医学的診断がついていない、母国語が英語のイギリスの双子サンプル。サンプルサイズは各年代で4959名~14187名まで様々
WISCを始めとして、各年代によって言語・非言語能力は異なる検査が使われています。
結果:
・非言語能力・言語能力共に2、3、4歳時において有意な差が見られ、それ以外の年齢では差は見られなかった。
・ただその差はかなり小さく「無視出来る程度の」差である
とまぁ、こんな感じです。他にも双子研究ならではの諸々が性ホルモンの観点から検討されているので、興味のある人は読んでみてください。ただ、今の段階では「幼児期に認知能力の性差はほんの少しだけあるが無視できる程度であって発達とともに無くなっていく」というのが結論のようです。この辺りは
にも紹介されている結論と変わりないですね。つまり、現状として言語・非言語能力に性差は無いと言っても良いのではないでしょうか。ただ序論にあったように、空間認知能力はまだ議論の余地がありそうです。
また面白い(臨床に役立つ)論文があれば随時紹介していきます。
学習の心理―行動のメカニズムを探る
著者:
実森 正子 (著), 中島 定彦 (著)
目次:
1 「学習」について学ぶ
1-1 学習とは
1-2 学習研究の方法
1-3 学習研究はどのように役立つか?
1-4 人間の学習と動物の学習
1-5 生得的行動
1-6 参考図書
2 馴化と鋭敏化
2-1 馴化
2-2 馴化現象を応用した知覚・認知研究
2-3 鋭敏化
2-4 参考図書
3 古典的条件づけ1:基本的特徴
3-1 古典的条件づけの獲得
3-2 刺激般化
3-3 条件づけの保持
3-4 情動反応の条件づけ
3-5 消去
3-6 外制止と脱制止
3-7 拮抗条件づけ
3-8 古典的条件づけに影響を及ぼす諸要因
3-9 参考図書
4 古典的条件づけ2:信号機能\r
4-1 複雑な古典的条件づけ
4-2 古典的条件づけにおける刺激性制御
4-3 刺激の情報価とレスコーラ=ワグナー・モデル
4-4 形態的学習と階層的学習
4-5 条件興奮と条件制止
4-6 随伴性空間と真にランダムな統制手続き
4-7 条件制止の検出
4-8 参考図書
5 古典的条件づけ3:学習の内容と発現システム
5-1 古典的条件づけで何が学習されるか?
5-2 反応の遂行
5-3 古典的条件づけの適応的意味
5-4 参考図書
6 オペラント条件づけ1:基礎
6-1 オペラント条件づけとは?
6-2 歴史的背景
6-3 オペラント条件づけの基礎
6-4 オペラント条件づけの普遍性
6-5 オペラント反応の形成
6-6 参考図書
7 オペラント条件づけ2:強化・消去と罰・強化スケジュール
7-1 強化
7-2 反応としての強化:プレマックの原理
7-3 反応頻度を減少させるオペラント条件づけ
7-4 消去
7-5 罰
7-6 強化スケジュール
7-7 強化スケジュール後の消去
7-8 複合強化スケジュール
7-9 参考図書
8 オペラント条件づけ3:刺激性制御
8-1 弁別
8-2 刺激般化
8-3 参考図書
9 概念学習・観察学習・問題解決
9-1 概念学習
9-2 観察学習
9-3 問題解決行動
9-4 参考図書
10 記憶と学習
10-1 記憶と学習
10-2 短期記憶
10-3 長期記憶
10-4 イメージの記憶
10-5 参考図書
11 引用文献
12 人名索引
13 事項索引
14 執筆者紹介
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