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臨床心理アセスメントハンドブック

出版されてから10年近く経ちますが、ここに書かれている警鐘のほとんどは現状変わっていないですね・・・

改訂 臨床心理アセスメントハンドブック

 

  心理測定論を専門とする著者らの渾身の名著。類書に

 

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などがあるが、本書は自己記入式から投影法まで様々なアセスメント法について幅広く解説している点が良い。

 

内容概説:

 第1章では序論として臨床心理アセスメントの概要について解説している。はじめに臨床場面におけるアセスメントの流れについて軽く説明した後、従来のテスト理論の基礎(妥当性・信頼性・効率性)についての説明が述べられている。数式が突如並び初学者にとって難解な箇所も多いだろうが、その場合は各基準の理屈だけ抜き取って理解すれば良い(できれば統計的な理解もあったほうが良いので、意欲ある読者は数式の理解にもチャレンジしてみてほしい)。最後に心理テストの種類として、性格検査、論理的質問紙(測定したい概念から論理的に作成された質問紙)、因子分析的質問紙(因子分析法による項目分析を経て作成された質問紙)、基準関連的質問紙(患者などの基準群と健常者などの対照群の間で異なる反応を示す項目を集めた質問紙)、主観的テスト(投影法)それぞれについて代表的な検査を取り上げながら解説している。最後にアセスメントの倫理として、インフォームド・コンセントをしっかり取る、心理測定的に不十分なテストは使用してはならない、といった点が解説されている。

 2章では面接法の基礎として初回面接の流れや進め方、傾聴・共感のコミュニケーション技法について述べられている。しかしなぜ本書にこの章があるか私はサッパリ理解できなかった。アセスメントという本書のテーマとは大きくかけ離れたものであるし、このような内容で質の高い本は沢山ある。正直に言うと、読み飛ばしても良いと思う。

 3章ではWAISについての解説がなされている。はじめにウェクスラー式知能検査および日本版WAISに関する歴史がやや詳しく述べられた後、WAISの因子分析研究や群指標の構成、そして実施法と採点法についての概説が述べられている。各検査がどのような内容で、どのように採点するかといった点も書かれている。実際に現場で実施している者はマニュアルを読めば全て書いてあるが、実際に触れる機会がないものにとっては貴重な節かもしれない。最後に解釈法について述べられている。内容としては

 

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に書かれていることとあまり変わらず、量的な意味でも本書よりそちらを読むべきかもしれない。ただ各検査ごとの解釈が詳細に述べられているのは実用的かもしれない(WISCであれば

 

 

エッセンシャルズ WISC-IVによる心理アセスメント

エッセンシャルズ WISC-IVによる心理アセスメント

  • 作者: ドーン・P・フラナガン,アラン・S・カウフマン,上野一彦,名越斉子,海津亜希子,染木史緒,バーンズ亀山静子
  • 出版社/メーカー: 日本文化科学社
  • 発売日: 2014/03/25
  • メディア: 単行本
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があるのだが、WAISでこのような下位検査ごとの解説がなされているものは貴重かもしれない)。次にプロファイル分析として、バナタイン・CHC・オズグッド・ラパポート・ディーン・ギルフォードの各理論モデルから、WAISの各検査がどのように理解できるかをやや手短に解説している。現在ではCHC理論が国際的にも有力とされ、日本でも流行の兆しが見える。最後に事例を用いてどのようにWAISを解釈するかが紹介されているが、結論がやや淡白過ぎるように思う。紙面の都合もあるだろうが、ここまで詳細に分析するのであれば、もう少し理解できる内容を増やせなかったか。最後に妥当性・信頼性・効率性について軽く述べた後、総括がなされている。

 4章ではBigFiveについて紹介されている。初めにパーソナリティ研究と理論に関する歴史が紹介された後、著者らが作成したBigFive尺度の作成方法や実施・採点法、尺度の解釈法が詳細に述べられている。特にプロファイルタイプと筆者が呼ぶ各指標の得点のタイプで解釈を行なっていく方法について、全てのタイプの解釈文を載せている。ただし本書でも述べられているように解釈文そのものの妥当性は検証されていないことは注意が必要。次にBigFive尺度を使用した事例を紹介し、最後に妥当性・信頼性・効率性を述べた後総括がなされている。

 5章では従来多く使用されてきた因子分析的質問紙として矢田部・ギルフォード性格検査(YG検査)、16PF人格検査・モーズレイ性格検査(MPI)を取り上げ、歴史的背景や項目、実施・採点法や解釈法と妥当性・信頼性・効率性が解説されている。本書の結論を一言でまとめると「これらの尺度は使うな」ということであろう。詳細は本書を確認してほしい。臨床現場では未だにYGは使われる話を聞く。一体なぜなのか、話を聞いてみたいところである。

 6章ではMMPIである。はじめにMMPIの歴史が紹介された後、基本尺度とその解釈について一通り記載されている。その後に日本版のMMPIの紹介として、著者が作成したMMPI尺度について、採用された129尺度の紹介と解釈が解説されている。他にもMINIやMMPI2について記載されている。最後にMMPIの実施法と一通りの解釈法(V字型・逆V字型などの妥当性尺度パターン分析とプロフィールの高得点指標を用いたプロファイル分析など)と事例(うつ病の事例2例)が記載されている。最後に信頼性・妥当性・効率性と総括がなされている。

 7章では簡素な質問紙としてBDI-2とGHQが紹介され、それらの歴史と実施・採点法と解釈法、妥当性・信頼性・効率性が記載されている。これらの質問紙は臨床場面でも多用されるものであるため、現在使用している者は勿論だが、使用していない者も見ておくと良いだろう。

 8章ではロールシャッハを扱う。初めに歴史と日本の現状を述べた後、片口法の実施法および記号化の方法がそれぞれのカテゴリーごとに詳細に示されている。また形態水準や反応内容の評定、修正BRSについてなどが紹介されている。その後解釈法が一通り述べられた後、解釈例が紹介されている。最後に信頼性・妥当性・効率性が紹介されている。

最後の9章ではTATが紹介されている。初めにTATの歴史とTATの全図版について内容と典型的な物語が記載されている。次に由来と実施・整理・解釈法が述べられ、信頼性・妥当性・効率性が述べられている。

 

 知能検査から投影法まで、著名な検査を幅広く概説し、かつ検査特性が詳細に述べられているという意味で、本書は他に類を見ない。その意味で、大学院試験や臨床心理士試験において重宝する一冊となるかもしれない。特に現場での検査経験が乏しい立場の者にとっては、読んでおいて損はないだろう。

 ところで、これらの検査や尺度を行っている人は必ず読むべきである。また、学部生や大学院生などの学生も読んでおくと良い。これから学んでいくであろう諸検査が科学の目に晒された時、どのような評価を受けているかは知っておこう。やや統計的な内容も含むが、正直に言うと、この程度の内容がわからない者は心理検査を行ってはいけないと思う。理解が難しかった者は、その点を自覚した上で勉強に励んでほしいものである。

 

おすすめ度:100点

対象者:学部生・大学院受験者・大学院生・臨床心理士試験受検者・臨床心理士

改訂 臨床心理アセスメントハンドブック

改訂 臨床心理アセスメントハンドブック

  • 作者: 村上宣寛,村上千恵子
  • 出版社/メーカー: 北大路書房
  • 発売日: 2008/11/01
  • メディア: 単行本
  • 購入: 1人 クリック: 2回
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 第1章 序論
第2章 面接法
第3章 ウェクスラ成人知能検査:WAIS‐3
第4章 主要5因子性格検査:BigFive
第5章 他の因子分析的質問紙
第6章 ミネソタ多面人格目録:MMPI
第7章 簡素な質問紙
第8章 ロールシャッハ・テスト
第9章 絵画統覚検査:TAT