心理学関連書籍レビューサイト

心理学に関する書籍の書評を行っています。

心理尺度のつくり方

著者

村上 宣寛

目次

第1章 歴史的方法
第2章 統計的基礎
第3章 信頼性
第4章 妥当性
第5章 尺度開発法
第6章 尺度開発の実際

 

 心理尺度や検査の妥当性の低さに警鐘を鳴らし続けてきた著者による、心理尺度の作成法をまとめた一冊。

 第1章では尺度作成研究の歴史を紹介し、どのような基準をもって良い尺度とするか、各基準は現在どのような評価を受けているかを、実際の尺度を例に出しながら簡単に解説している。2章では具体的な統計手法として相関係数や回帰分析を紹介し、実際の尺度データを例に出しながらこれらの方法が尺度研究においてどのような意義を持っているかを解説している。

 3章では信頼性について一般的な概説を行っている。信頼係数の算出だけでなく、項目反応理論や一般化可能性理論の解説も行っている。項目反応理論に関する書籍は近年多く出版されるようになったが、現在再検査信頼性を求める際に多く用いられる級内相関係数の基礎となる一般化可能性理論の紹介は未だ多くなされておらず、その意味でも貴重な章である(分量はかなり少ないが)。4章では妥当性について一般的な概説を行っている。旧来の妥当性概念を整理し、改めてどのような基準で妥当性を定義・測定するのが良いかを解説している。

 5章からは具体的な尺度作成法について解説している。特に図5.1の作成フローチャートはとてもわかりやすい。実際に1から項目を作成しようとするとどこから手を付けたらよいかわからなくなりがちであるが、この本では項目の作成から(もっと言えば、どのような概念を測定するか、という所から)回答方式はどうするか、試作版の結果をどう理解するか、項目分析はどのようにして行うか、そこから良い尺度にしていくにはどのような方法を踏めばいいかを懇切丁寧に、初学者でも十分に行えるほど優しく書かれている。6章では具体例として著者らが作成した6つの尺度について、製作手順や各分析の内容など、「どのように」作成したかが丁寧に解説されている。

 

 学部生から大学院生、研究者まで、心理尺度を作成する研究が国内外含めて大量に行われ、出版されている。中には少しばかり作成において疑問に感じる尺度が少なくない。そのようにして作られた尺度は妥当性が低く、その尺度を使用する研究者・回答者に無駄な負担を強いるだけである。もし臨床場面で使用する尺度であれば、なおさらである。自分が作る尺度がそのようなモノにならないよう、本書を熟読し研究に挑んでほしい。中途半端な尺度作成は害悪でしか無い。

 

おすすめ度:100点(尺度作成者は必ず一度は読むことを勧める)

対象者:尺度作成を行う者全て

 

 

心理尺度のつくり方

心理尺度のつくり方