心理学関連書籍レビューサイト

心理学に関する書籍の書評を行っています。

心理アセスメントレポートの書き方

著者

エリザベス・O. リヒテンバーガー  (著), ネイディーン・L. カウフマン  (著), アラン・S. カウフマン (著), ナンシー マザー  (著), Elizabeth O. Lichtenberger (原著), Alan S. Kaufman (原著), Nadeen L. Kaufman (原著), Nancy Mather (原著), 上野 一彦 (翻訳), 染木 史緒 (翻訳)

 

目次

第1章 はじめに
第2章 レポートを書く技術
第3章 相談内容と背景情報
第4章 行動観察
第5章 検査結果と解釈
第6章 診断(見立て)と要約
第7章 指針
第8章 レポートの作成に関する特別な事項
第9章 ケースレポート事例
資料 新しい心理検査情報について(日本の読者のために)
付録 テスト情報

 

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Rによるやさしい統計学

著者

山田 剛史  (著), 杉澤 武俊  (著), 村井 潤一郎  (著)

 

目次

第1部 基礎編(Rと統計学
1つの変数の記述統計
2つの変数の記述統計
母集団と標本
統計的仮説検定 ほか)
第2部 応用編(ベクトル・行列の基礎
データフレーム
外れ値が相関係数に及ぼす影響
統計解析で分かること・分からないこと
二項検定 ほか)
付録

 

 近年、心理学界隈でも多く用いられるようになってきた統計ソフトRに関する初心者向け解説書。Rの本は沢山あるが、心理学で使われる分析手法に焦点を当てている入門書としては、かなり質の高い部類であろう。

 はじめにRとは何か、そして導入するにはどうしたら良いかを丁寧にインストール画面の画像付きで解説し、簡単な計算や関数についても紹介している。初めの章だけ読めば、Rの導入に困ることは無いであろう。

 2章と3章で平均や分散、標準化といった1変数の記述統計と散布図や相関といった2変数の記述統計を扱う。これらの分析について、Rで計算させながら理論的に説明していくスタイルをとっている。関数や分析だけを行いたい場合は、この辺は飛ばしても良いだろう(もちろん、理論的な部分も知っておくことが重要ではあるが)。

 5章~7章では、無相関検定、カイ二乗検定、t検定、分散分析といった仮説検定の実施方法とその理論的背景について解説している。これらを読めば、基本的な心理統計学的分析の基礎は習得したと言ってよいだろう。

 8章からは応用として、エクセルなどからのデータの読み込み方法(9章)、逆転項目の処理やα係数の算出(14章)、回帰分析(15章)、因子分析(16章)、共分散構造分析(SEM:17章)といった、心理学の研究でなじみ深い手法をRで実施する方法が詳しく丁寧に説明されている。

 

 「今までSPSSを使ってきたが、Rを学びたい」という人は、初めの一冊としてこの本を選んで間違いないように思う。その一方、この本から心理統計学を始めるのはなかなかハードであるように思う。自分が行いたい分析手法のページを読みながら、Rで自分のデータを触るのが一番ベストな使い方かもしれない。

 

おすすめ度:90点

対象者:学部3年程度~研究者(Rを学びたい人)

 

 

Rによるやさしい統計学

Rによるやさしい統計学

 

 

よくわかる臨床心理学

筆者

下山 晴彦 (編集)

 

目次

臨床心理学とは何か1・構造と歴史
臨床心理学とは何か2・基本理論
問題を理解する(アセスメント)1・目的と方法
問題を理解する(アセスメント)2・データの収集技法
問題を理解する(アセスメント)3・データの分析技法
問題を理解する(アセスメント)4・異常心理学
問題を理解する(アセスメント)5・ライフサイクルと心理的問題
問題を理解する(アセスメント)6・発達過程で生じる障害や問題
問題に介入する1・理論モデル
問題に介入する2・介入技法 1個人
問題に介入する3・介入技法 2集団・社会

問題に介入する4・コミュニティにおける相談活動
臨床心理学研究
社会的専門性
臨床心理士になるために

 

 多くの学校で用いられる臨床心理学の教科書。

 第1章はいつもの下山節だなぁという感想以外は浮かばない(ただし、とても重要であることに違いはないが)。

 しかし2章以降はナラティブや科学者ー実践家モデルといった思想の話(2章)、面接法から脳画像まで含むアセスメント論(3章)、各精神障害(第5・6章)や介入アプローチ(7~10章)と、臨床心理学的知識は一通り記載されている。この一冊さえ理解できれば、臨床心理学に関する入門的知識は概ね獲得できたと言ってもいいのではないか。

 ただ、網羅性を向上させた代わりに一つ一つのテーマが薄く(見開き1ページ程度のものがほとんど)、あくまで「入門的な知識」しか身に着けられない。そのため、この一冊だけで臨床心理学という学問を理解するのは不可能であろう。しかし、それを差し引いても良書と言える。一歩突っ込んだ内容は、別書を読めばよいだけのことである。

 

臨床心理学の大学院試験や臨床心理士試験においても重宝する一冊。やや情報が古くなってきたことと、情報の浅さがネックか。

 

おすすめ度:90点

対象:学部1年生~臨床心理士試験

 

よくわかる臨床心理学 (やわらかアカデミズム・わかるシリーズ)

よくわかる臨床心理学 (やわらかアカデミズム・わかるシリーズ)

 

 

日本版WAIS-Ⅲの解釈事例と臨床研究

筆者

藤田 和弘 大六 一志 山中 克夫 前川 久男 

目次

第1部 WAIS‐3の理論的背景とアセスメントの進め方(WAISの変遷と理論的背景
WAIS‐3の検査結果を解釈する手順
WAIS‐3によるアセスメントレポートの書き方)


第2部 WAIS‐3によるアセスメント事例(精神科医療領域
高次脳機能リハビリテーション領域
老年医療領域
高等教育・就労領域)

 

第3部 WAIS‐3による臨床研究(簡易実施法
WAIS‐3から見た臨床群の特徴)
付録(仮説を採択するための根拠(背景情報等)
用語解説(測定用語))

 

 日本では唯一のWAIS-Ⅲに関する専門書。

 最初の数ページで知能検査の歴史や現在の動向をまとめ、その後は具体的にどのように結果を算出し、その結果をどう解釈していけばいいかを解説している。各群指数の説明にとどまらず、補助検査の解釈や、他の媒体から既に得られている情報とどう統合するかといった所見を書く上で不可欠な部分も詳細にかかれている。また、言語性・動作性IQは不要であるとWAIS-Ⅲ開発メンバーが言及している点も見逃せない(WISCではとっくの昔に言われている。未だ言語性・動作性を解釈に使っている人は至急この本を読むように)。

 アセスメントレポートの書きかたもややあっさり目ではあるが書かれている。事例は8つ載っているが、やや領域が特殊でそのまま使えるようなものではないため、あくまでも書き方のお手本として使えるだろう。アセスメントレポートの書き方については、この本

madoro-m.hatenablog.com

が詳しいので、こちらを参照した方が良いだろう。

 最後には「複数回行なったときの影響」や「簡易版の実施法および採点」「臨床群のプロフィール」といったこの本ならでは(というより、開発メンバーだからこそ書ける)の内容も書かれており、WAIS-Ⅲを使う人間であれば、読んで損になることは一つもない。

 一つ気になる点は、プロフィール分析である。この本では群指数だけでなく、各検査で測定されている概念の共通項(たとえば「視覚-運動協応」や「情報の符号化」など)をまとめた「プロフィール分析」と呼ばれるもの(いわゆるプロフィール分析ではなく、本書内でも述べられているように群指数以外で検査結果に影響を与えている「能力や影響因」の探索である)が載っており、かつ具体的に所見に書くための基準まで整備されている。しかしこのプロフィール分析が「どうしてこの基準になったのか」「そもそも各検査でこれらが本当に影響しているのか」に関する説明はまったくなく、本書に書かれていることを鵜呑みにするのはあまりよくないと思う。また、プロフィール分析の内容もやや古くわかりにくい。そのため、解釈に使用する際に有用であるとは自信を持って言える段階にはまだ無いと思われる。ただ、このような試みを試験的に行なったことは評価できるし、今後の研究が待たれる部分であろう。あと、最後のページにおまけのように載っている、日常生活と各能力との対応表は、必見。

 

まとめ

 検査を取る人だけでなく、検査を診る人にも必携の一冊である。内容は十分であるが、情報が少しばかり古くなってきたのと、やや値段が高いのがネックか。

 

おすすめ度:75点(WAISを使う人は100点)

 

 

日本版WAIS‐IIIの解釈事例と臨床研究

日本版WAIS‐IIIの解釈事例と臨床研究

  • 作者: 藤田和弘,大六一志,山中克夫,前川久男
  • 出版社/メーカー: 日本文化科学社
  • 発売日: 2011/04/01
  • メディア: 単行本
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