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子どもの心理臨床

古いがよくまとまっている。そしてユング・箱庭の説明はさすが。

子どもの心理臨床 (シリーズ子どもの心を知る)

  子どもに対する心理療法の入門的な概説書。やや内容は古くなっているが、遊戯療法や箱庭療法は事例付きで紹介されており、とても勉強になる。

 1章では臨床心理学の基本的な解説として、臨床心理学が対象とする状態像とはどのようなものか、臨床心理学の歴史、研究の方法論がやや短めにまとめられている。研究法は、現在主流の科学性を志向した方法論についてはあまり触れられておらず、個別性から普遍を目指す方向性が述べられている。

 2章では理論として、フロイトユング、ロジャーズという3者の生い立ちやその後構築した各理論の説明がやや詳しく紹介されている。その後に対象関係論としてクラインやフェアバーンウィニコットカーンバーグが、自我心理学としてハルトマンやエリクソン、母子関係論としてスピッツやボウルビィ、マーラーの理論が解説されている。ここでの各論の説明は分量はそこまでないが、各理論の核となる部分がよくまとまっており、詳しくない者でも理解しやすい。ユングとロジャーズ以外でもう少し詳しく学びたい場合は

 

改訂 精神分析的人格理論の基礎―心理療法を始める前に

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の本が良いと個人的には思う。

 3章では子供が抱える問題として、新生児期・乳児期・幼児期・児童期に分類して生じやすい問題を紹介している。また具体的な問題として学業上の問題や問題行動、神経症心身症などが解説されている。

 4章では具体的な介入理論として、遊戯療法、5章では箱庭療法が紹介されている。遊戯療法の解説ではアクスライン的な視点が紹介され、事例の解説がなされている。このあたりを詳しく学びたい者は

 

新版・プレイセラピー: 関係性の営み

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がオススメである。箱庭療法の解説では箱庭そのものが持つ治療的な要因や箱庭の見方が解説された後、実際の事例の解説がなされている。6章は芸術療法として、絵画療法とコラージュ療法、音楽療法が紹介され、歴史などが解説されている。7章では行動療法として古典的条件づけ・道具的条件づけ・モデリング認知療法的技法について基礎理論を解説し、実際の事例が多めに紹介されている。8章は家族療法として事例を中心にどのような介入が行われているかを紹介している。

 9章では心理臨床の現場として、臨床心理士がどういった現場で働いており、どのような役割が求められているかが説明されている。10章では臨床心理士になるための訓練として、臨床心理士がどのような役割が求められ、どのような鍛錬を積む必要があるかを説明している。

 

 本書は子どもの心理療法に関する様々な事柄が良くまとまっている。特に精神分析の基礎的な説明はわかりやすい。改めて勉強になることも多く、臨床心理士試験の教材として使うのも良いかもしれない。しかし、その点を差し引いても、やはり内容が古くなってしまっている点と内容がやや箱庭療法や遊戯療法に偏っている点は否めない。子供を対象に精神分析的なオリエンテーションを志向する者や箱庭療法・遊戯療法を初めて学ぶ者は読んで損はないと思うが、それ以外の者は読んでもそこまでタメにならないかもしれない。

 

おすすめ度:75点

対象者:大学院生・臨床心理士受験者・臨床心理士

 

子どもの心理臨床 (シリーズ子どもの心を知る)

子どもの心理臨床 (シリーズ子どもの心を知る)

 

筆者:

弘中 正美 (著), 宮下 一博 (著), 浜口 佳和 (著)

目次:

 第1部 心理療法の基礎理論(臨床心理学をめぐる基本的諸問題
臨床心理学の理論
子どもの心の問題のとらえ方)
第2部 子どもの心理療法(遊戯療法
箱庭療法
芸術療法
行動療法
家族療法)
第3部 実践家への道(心理臨床の現場
臨床心理士になるための訓練)