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学習の心理―行動のメカニズムを探る

著者:

実森 正子 (著), 中島 定彦 (著)

目次:

1 「学習」について学ぶ
1-1 学習とは
1-2 学習研究の方法
1-3 学習研究はどのように役立つか?
1-4 人間の学習と動物の学習
1-5 生得的行動
1-6 参考図書
2 馴化と鋭敏化
2-1 馴化
2-2 馴化現象を応用した知覚・認知研究
2-3 鋭敏化
2-4 参考図書
3 古典的条件づけ1:基本的特徴
3-1 古典的条件づけの獲得
3-2 刺激般化
3-3 条件づけの保持
3-4 情動反応の条件づけ
3-5 消去
3-6 外制止と脱制止
3-7 拮抗条件づけ
3-8 古典的条件づけに影響を及ぼす諸要因
3-9 参考図書
4 古典的条件づけ2:信号機能\r
4-1 複雑な古典的条件づけ
4-2 古典的条件づけにおける刺激性制御
4-3 刺激の情報価とレスコーラ=ワグナー・モデル
4-4 形態的学習と階層的学習
4-5 条件興奮と条件制止
4-6 随伴性空間と真にランダムな統制手続き
4-7 条件制止の検出
4-8 参考図書
5 古典的条件づけ3:学習の内容と発現システム
5-1 古典的条件づけで何が学習されるか?
5-2 反応の遂行
5-3 古典的条件づけの適応的意味
5-4 参考図書
6 オペラント条件づけ1:基礎
6-1 オペラント条件づけとは?
6-2 歴史的背景
6-3 オペラント条件づけの基礎
6-4 オペラント条件づけの普遍性
6-5 オペラント反応の形成
6-6 参考図書
7 オペラント条件づけ2:強化・消去と罰・強化スケジュール
7-1 強化
7-2 反応としての強化:プレマックの原理
7-3 反応頻度を減少させるオペラント条件づけ
7-4 消去
7-5 罰
7-6 強化スケジュール
7-7 強化スケジュール後の消去
7-8 複合強化スケジュール
7-9 参考図書
8 オペラント条件づけ3:刺激性制御
8-1 弁別
8-2 刺激般化
8-3 参考図書
9 概念学習・観察学習・問題解決
9-1 概念学習
9-2 観察学習
9-3 問題解決行動
9-4 参考図書
10 記憶と学習
10-1 記憶と学習
10-2 短期記憶
10-3 長期記憶
10-4 イメージの記憶
10-5 参考図書
11 引用文献
12 人名索引
13 事項索引
14 執筆者紹介

 

 

 サイエンス社が誇る名シリーズ「コンパクト新心理学ライブラリ」の学習心理学版。学習心理学の内容について広範囲かつ詳細に解説されており、教科書としての評判は高く(かつ学習心理学の教科書がそこまで無いことも相まって)、多くの授業で使用されている一冊。内容としても各領域について十分すぎるほど解説がなされており、学習心理学の入門~中級者向けとしてかなりの良著である。

 1章では本書のテーマでもある「学習とは何か」という問題について扱う。学習の定義から始まり、どのように学習を評価するかといった研究法や実践応用などについて解説を行っている。2章では馴化と鋭敏化という、単一刺激に対する学習を扱う。特に馴化については脱馴化や自発的回復、短期馴化と長期馴化など、一通りの基礎は紹介されている。

 3章からは古典的条件づけについて扱う。3章では条件づけや消去、USとCSの関係性が条件づけに与える影響といった古典的条件づけに関する基礎的な現象について紹介がなされている。4章では高次条件づけや分化条件づけから隠蔽、阻止や過剰予期効果といった現象を取り上げながら、それらの現象を説明するためにレスコーラ=ワグナーモデルが出てきたことなどが紹介されている。また、階層的学習における場面設定子や復元効果、サイントラッキング、随伴性学習といった、やや応用的な内容についても紹介されている。5章ではさらに一歩進んだ内容として、「古典的条件づけはどのような学習がなされているのか」といったことや補償反応といったトピックが扱われている。

 6章からはオペラント条件づけについて扱う。6章は基礎としてソーンダイクやトールマン、スキナーを紹介し、強化や消去といったテーマを解説している。そのような基礎的な話だけでなく迷信行動や反応変動性、シェイピング、ルール支配行動といったやや応用的なテーマについても触れている。7章では正負の強化の違いから条件性強化子、プレマックの原理や罰、各強化スケジュールについて紹介されている。また対応法則や般化も触れられているが、それ以外にも選択的注意にも触れられている。オペラント条件づけの項に選択的注意が述べられている書は数少なく、貴重な内容である。よりオペラント条件づけについて学びたい者は

madoro-m.hatenablog.com

を読むといいだろう。

 9章からは概念学習や観察学習、問題解決といった応用的な学習について扱う。10章では記憶と学習として記憶の忘却や検索、長期記憶と短期記憶といった認知心理学的な内容が中心となる。

 ここまで述べてきたように、内容は多種多彩、しかし学習心理学の基礎を学ぶ上で必要な事柄は全て触れられている、良著であり名著である。基礎研究者志望の学生はもちろんのこと、臨床心理学を学ぶ者にとっても学習心理学は障害や問題を理解するための基礎的枠組みの1つである。特に認知行動療法や応用行動分析学を志向する者は必ず読むように。古典的条件づけをはじめとする連合学習理論は曝露療法、オペラント条件づけは応用行動分析学の根幹をなす基礎学問である。学習心理学を知らずして、これらの介入は不可能であることを肝に銘じておくこと。

 

おすすめ度:100点

対象者:学部生・大学院受験者・大学院生・臨床心理士

 

学習の心理―行動のメカニズムを探る (コンパクト新心理学ライブラリ)

学習の心理―行動のメカニズムを探る (コンパクト新心理学ライブラリ)