心理学関連書籍レビューサイト

心理学に関する書籍の書評を行っています。

現代臨床精神医学

著者

大熊 輝雄 (著), 「現代臨床精神医学」第12版改訂委員会 (編さん)

 

目次

■総論
第1章 精神医学序論
 I. 精神医学の概念
 II. 精神医学における正常・異常と健康・病的状態(疾病)の問題
 III. 精神医学の対象領域
 IV. 精神科患者の処遇
 V. 精神医学の方法
 VI. 精神障害の成因、経過と分類
第2章 精神現象の神経科学的基礎
 I. 心身相関の問題
 II. 脳と精神現象
 III. 精神生理学
 IV. 神経化学と神経薬理
 V. 精神神経内分泌学と精神神経免疫学
第3章 精神の発達・加齢と精神保健
第4章 精神症状学
 I. 序論
 II. 個々の精神症状
 III. 神経心理学高次脳機能障害
 IV. 主要な症候群と状態像
第5章 精神医学的診断学
 I. 精神医学における診断の手順
 II. 理化学的検査
 III. 心理検査

■各論
第6章 症状性を含む器質性精神障害
 I. 器質性精神障害、器質精神病
 II. 身体疾患に伴う精神障害(症状精神病)
 III. てんかん
 IV. アルコ-ル関連精神障害
 V. 精神作用物質使用による精神および行動障害(薬物依存)
 VI. 医薬品使用に伴う障害
 VII. 職業中毒、公害などに関連した化学物質による中毒精神病
第7章 神経症性障害・ストレス関連障害・身体表現性障害;人格・行動の障害
第8章 統合失調症、妄想性障害と気分障害
 I. 統合失調症
 II. 持続性妄想性障害
 III. 急性一過性精神病性障害
 IV. 感応性妄想性紹介
 V. 統合失調感情障害
 VI. 非定型精神病
 VII. 気分障害、感情障害、躁うつ病
第9章 児童・青年期および老年精神医学
 I. 概説
 II. 児童期および青年期の精神発達
 III. 児童・青年期の精神医学の特性
 IV. 児童期および青年期にみられる精神障害
第10章 精神医学と社会との関連
 I. 高度情報社会と精神医学
 II. 精神障害者処遇の法規
 III. 司法精神医学
 IV. 社会と精神医学
第11章 精神医学的治療学
 I. 精神科治療の特色
 II. 精神科治療の発達
 III. 身体療法
 IV. 精神療法
 V. 精神障害リハビリテ-ション
 VI. 精神科救急医療
 VII. コンサルテ-ション・リエゾン精神医学

付表
 1-1. International Classification of Diseases,Chapter V(F)、Tenth Revision(ICD-10) 
 1-2. 国際疾病分類(ICD-10)における気分[感情]障害の分類
 2.DSM-IV-TR分類
 3.Mini-Mental State Examination(MMSE) 
 4. DSM-4.てんかん発作の国際分類 
 5. てんかんおよびてんかん症候群の国際分類 
 6. Clinical Dementia Rating(CDR)
 7. Brief Psychiatric Rating Scale(BPRS)の日本語翻訳版 
 8. Hamilton’s Rating Scale for Depression(HRSD) 
 9. 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律 
 10. 医師国家試験出題基準(平成17年度版)

 

 国内では代表的な精神医学教科書の1つ。精神医学の歴史から神経科学的基礎、各精神障害論、治療学までありとあらゆる精神医学的知識が記載されている。

 第1章は精神医学序論として、精神医学の歴史や分類学の変遷などが解説されている。第2章では精神現象の神経科学的基礎として、神経科学と精神現象(症状)の関係性について述べられている。神経科学の基礎は理解していることが前提なので、知識に自信がない人は先に

madoro-m.hatenablog.com

を読むことを勧める。通常の神経科学だけでなく、神経化学(神経伝達物質等)、あるいは遺伝子の知識も重要である。多くの臨床心理士はこの辺の知識をないがしろにしがちであるが、正確な患者・クライエントのアセスメントのためには絶対に全員知っておくべきである。また、医師とのコミュニケーションや薬物処方の意図を理解するためにも重要である。3章では精神発達と加齢について述べられているが、ページ数も少なく、特段重要なことは書かれていない。これであれば、他書で十分であろう。

 4章では精神症状学として、意識障害や知能の障害、記憶・知覚・思考・感覚・言語の障害といった従来の精神医学が対象としてきた精神症状を1つ1つ丁寧に解説している。特に意識障害や言語の障害などは臨床心理士の勉強がおろそかになりやすい部分なので、熟読することを勧める。この章は各症状の定義、分類、現象学が綿密に記載されており、勉強になる。5章では精神医学的診断学との章題の通り、精神科医師が使用する診断のための方法論について解説がなされている。面接時に聞く内容から身体的な所見、理化学的検査(神経画像診断から脳波、髄液検査法(!)に至るまで)を解説している。臨床心理学を学ぶだけでは教わらないような内容が多いため、特に病院に勤務する者は必ず知っておくべき内容であろう。最後に心理検査についても少し述べられているが、内容がやや古いのと、ページ数が少ないのが気になる。中心は神経心理学的アセスメントであるので、それであれば

madoro-m.hatenablog.com

こちらの本で更なる知識を増やすのがおすすめである。

 6章では器質性精神障害として、認知症や脳血管系の障害や、感染症や内分泌疾患による身体疾患に伴う精神障害てんかん、アルコール関連精神障害、薬物依存、が解説されている。これらはまさに精神医学が対象としてきた代表的な障害であり、その分多くのページ数が割かれている。内容も十分過ぎるほど充実しており、これらの内容を勉強したければ、この本から入るのが良いだろう。ただ内容が医学寄りであるため難解に感じるかもしれない。その際は他書を参照しつつ、読み進めていくとよいだろう。

 7章は従来「神経症」としてまとめられてきた各障害に関する解説がなされている。歴史や分類学については一読の価値があるが、一つ一つの障害の解説が少なく、網羅的にまとめただけの感じが否めない。8章は統合失調症気分障害の解説であるが、こちらは前章と比べてかなり充実している(精神医学なので当然と言えば当然である)。歴史から疫学、神経化学的な仮説から症状学まで丁寧に解説されており、この1章を読めば統合失調症気分障害の基本は理解できたと言えるのではないか。ただ、治療法がほぼ薬物療法のみの紹介であるため、実際に心理的介入を行う場合は、この本だけでなく別書を当たる必要がある。

 9章は児童・青年・老年精神医学ということで、発達的な関連がある精神障害がまとめられている。これも通常の知的障害や発達障害というよりは、器質的な問題に伴う精神障害が多く記載されており、臨床心理学の書籍では扱わないような障害なども多く出てくるため、読んでおいて損はない。10章は社会と精神医学ということで、精神障害と社会の関係性や、関連法規、自殺への危機介入などといった内容が中心になっている。

 11章は治療学ということで、中心は薬物の作用機序である。各薬物の作用機序に関して詳細に解説されており、一読の価値はある。ただ、このような内容の知識が乏しい場合は、入門書を当たってから読むことを勧める。ある程度知識がないと、何を言っているかほとんどわからないだろう。おまけのように精神療法やリハビリテーションの話も載っているが、解説が少なすぎてあまり参考とはならない。

 精神医学を学ぼうとする人には良著であろうが、心理学とは異なる分野の本であるので、やや好き嫌いが分かれるかもしれない(いわゆる臨床心理学的な内容はほとんど出てこない)。ただ、臨床心理士であれば知っておかなければならない知識が満載なので、少し頑張ってでも読む価値はある。嫌がっていても、いつかは覚えなければいけない内容であるのは間違いない。大変なのは承知で、この機会に是非取り組んでみてはいかがだろうか。読んで損することは一つもない。

 

おすすめ度:65点(章ごとのばらつきが大きい)

対象者:大学院生・臨床心理士 

現代臨床精神医学

現代臨床精神医学

  • 作者: 大熊輝雄,「現代臨床精神医学」第12版改訂委員会
  • 出版社/メーカー: 金原出版
  • 発売日: 2013/04
  • メディア: 単行本
  • この商品を含むブログを見る