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場面緘黙の支援の最前線

場面緘黙を理解するためには読んだ方が良い。どのような目的で読むにしても満足できる。ただし紹介されている内容がややマイナーな部分が多い。

場面緘黙支援の最前線:家族と支援者の連携をめざして

  場面緘黙について多角的な視点で解説されている一冊。ただし全体的に各章の内容がマイナーなトピックに絞られており、興味のある部分だけつまみ読みするのが良いかもしれない。

 

 第1章では場面緘黙の基本的な状態像や疫学的な情報、発症要因や介入法などが紹介されている。場面緘黙症を持っている一人一人が異なる状態像を示していることや、場面緘黙を持っていることによってどのような問題が生じるかも書かれている。第2章では緘黙の状態像についてより詳細に紹介されている。初めに場面緘黙の原語である「elective mutism」に用語が落ち着くまでの変遷や「話せないこと」の意味についての理解、時代の影響などが紹介されている。またアセスメント法や発症の要因なども紹介されている。1章と2章は本書における場面緘黙の一般的知識の提供を担っている部分であり、場面緘黙へ対応を行う必要がある心理士は一度目を通すことを勧める。

 第3章は研究の成果として、実際の場面緘黙症者とその親に対する調査から得られた知見の紹介を行っている。場面緘黙の実情や必要とされている支援、困りごとなど臨床実践を行う上で知っておくほうが良い貴重な情報が多く載せられており、一読の価値がある。第4章はイギリスの場面緘黙支援ネットワークについての紹介がなされている。

 第5章からは併存する障害との関係について述べられている。5章はコミュニケーション障害、6章は自閉症スペクトラム障害、7章は吃音との関係性が紹介されている。実践上で場面緘黙と接するとどうしてもそちらに目が行きがちになり、併存障害の可能性は見過ごされがちになる。こういった情報も知ったうえでのアセスメントが必要であるだろう。

 第8章からは場面緘黙に対する介入法について紹介されている。第8章は場面緘黙に対する薬物療法の効果について紹介されている。ただし1つの事例が元であり、効果研究などによる知見ではない。イギリスでは場面緘黙に対して薬物療法は多く用いられているとの記載はあるが、やはり第一選択肢は心理社会的介入ということだろうか。第9章では学校や地域における支援の例として、プレイセラピーや就労支援などが紹介されている。この内容であればプレイセラピーについてもう少し詳しく書いても良かったのではと思わざるを得ない。

 10章では家庭と学校の連携について3つの事例から書かれている。具体的な介入法の紹介もされているため、どのように支援していくのが良いか迷っている者は読む価値のある章であろう。11章では場面緘黙におけるケアパスが紹介されている。ただしイギリスの例であるため、日本でそのまま考えるわけにはいかない。12章では英語圏以外の場面緘黙支援の現状として、日本をはじめベルギーやドイツの例が紹介されている。日本では現状として支援体制がほとんど整っていない点は、支援経験があるものは心から同意するところだろう。13章では音楽療法による支援、14章では自信を付けさせる取り組みについてかなり詳細に書かれている。介入法に関する記述はこの2つがかなり大幅に紙面を取っている印象である。なぜこの2つなのであろうか・・・15章では場面緘黙に対する法的な支援について紹介されている。16章では成人期における場面緘黙について述べられている。

 17章では場面緘黙が改善した事例について、当事者による語りが載せられている。最後の18章では今後の支援の方向性について述べられている。

 

 ここまで述べてきたように、場面緘黙について包括的に述べられている一冊であるが、紹介されている内容に偏りがあることも否めない。とはいえ支援を行うものは最低でも包括的な解説がなされている1~3章と併存に関する5~7章は読んでおくことを進める。あとは必要に応じて読んでおくのが良いかもしれない。

 

おすすめ度:68点

対象者:場面緘黙症の支援を行う者

 

場面緘黙支援の最前線:家族と支援者の連携をめざして

場面緘黙支援の最前線:家族と支援者の連携をめざして

 

筆者:ベニータ・レイ・スミス・アリス・スルーキン ・ジーン・グロス 

目次:

第1章 場面緘黙の概要とそのアプローチ
第1部 近年の場面緘黙の理解
第2章 子どもの場面緘黙
第3章 場面緘黙をもつ10 代の子どもと保護者の声
第4章 支援ネットワークSMIRA(スマイラ)の成り立ち
第2部 関連する症状や併存障害
第5章 場面緘黙とコミュニケーション障害の併存
第6章 場面緘黙自閉症スペクトラム障害の関連性
第7章 場面緘黙と吃音
第3部 介入・治療方法と支援法
第8章 場面緘黙における薬物療法の有効性
第9章 学校や地域で有効な場面緘黙への支援
第10章 家庭と学校との連携による場面緘黙への効果的な支援
第11章 場面緘黙のケアパスの有効性
第12章 他言語圏における場面緘黙支援の現状
第13章 音楽療法と発話への道
第14章 10 代の子どもに自信をもたせる
第15章 場面緘黙児への法的支援
第16章 成人期における場面緘黙
第4部 まとめ
第17章 場面緘黙症状の改善
第18章 場面緘黙の今後