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セラピストのためのエクスポージャー療法ガイドブック:その実践とCBT、DBT、ACTへの統合

大変良い本だが、各療法との融合部や各障害における使用法は浅く広くで終わってしまった感じ。

セラピストのためのエクスポージャー療法ガイドブック:その実践とCBT、DBT、ACTへの統合

 エクスポージャー療法に関する総合書。エクスポージャー療法の基礎部においては近年の動向を踏まえた解説がなされ、応用部についてはCBTや新世代の認知行動療法との融合や各障害のマニュアル的要素も含んだ包括的な書籍である。基礎部(1章~4章)はとても良い内容であるが、応用部(5章以降)は浅く広く感が否めないので、これらの詳細を知りたい者は他書や論文に当たることを勧める(といっても類書はあまり無い印象だが・・・)。

 

 第1章では、不安や恐怖を主症状とする患者・クライエントに対してエクスポージャー療法を用いる意義について触れられている。主にページを割いているのが「なぜセラピストはエクスポージャー療法を用いないのか」という部分。読んでいて、私も「なぜ使えないのか」の理由に同感せざるを得ない部分が多かったが、本章を読むことでその考えはやや修正されたように思う(なんでもかんでも使えばいいというわけではもちろんない)。

 2章ではエクスポージャー療法、3章ではエクスポージャー療法と一緒に用いられることの多い反応妨害法について、その歴史とメカニズムの解説(学習理論的な解説と認知療法的な解説が両方とも平易な言葉でなされている)が示されている。2章ではエクスポージャー療法の基盤として、学習理論における2要因理論と認知理論における不適切な思考や情報処理に焦点を当てており、エクスポージャー療法の基礎を学ぶ上では丁度良い分量のように思う。3章では反応妨害法についての解説だけでなく、実際に行う上での注意点も詳細に述べられている。特にクライエントへの心理教育はエクスポージャー療法や反応妨害法を行うにあたり重要となる部分であるため、本章の記述は実際のクライエントに用いる際の手助けになるだろう。

 4章では実際にエクスポージャー療法を用いる際の具体的手続きや留意点について詳細に述べられている。特に不安階層表をどのように作っていくか、エクスポージャーする際の持続時間や頻度はどのように設定するべきか、セッションの構造化の問題をどうクリアしていくかなどが触れられている。具体的にどのようにクライエントにエクスポージャー療法を導入していくかが詳細に触れられており、実際にセラピーに導入する際はこの章だけでも一読しておくことを勧める。

 5章から8章では、認知行動療法(5章)、弁証法的行動療法(6章)、アクセプタンス&コミットメント・セラピー(7章)、持続エクスポージャー・ナラティヴエクスポージャー・感情エクスポージャー(8章)におけるエクスポージャー療法の役割について触れられている。しかし各章のどれをとってもやや内容が浅く、これらを読んだからと言ってすぐに臨床実践に活用することは難しいだろう。各療法の詳細については当該関連書籍を読むことを勧める。ただし5章の認知行動療法のトピックでは、従来の認知療法のモデルではなく近年発展してきた認知モデルが紹介されているため、興味のある人は読んでみると良い。

関連書籍としては、弁証法的行動療法およびアクセプタンス&コミットメント・セラピーは

 

madoro-m.hatenablog.com

 

 

madoro-m.hatenablog.com

 辺りの書籍が参考になる。持続エクスポージャーにおいては

 

madoro-m.hatenablog.com

 この本一択であろうか。

 

9章以降の章はマニュアル的な要素が強い。9章で各療法におけるエクスポージャー療法の役割を概説しなおした上で、10章以降では各障害における典型的な症状と、それに対応するエクスポージャー療法の実施法について触れられている。マニュアル的といっても詳細に書かれているわけではなく、リスト的に一覧になっているだけである。実際にエクスポージャー療法を使用している人が実施におけるヒントを探すには役立つかもしれないが、これだけを読んで実行に移すのはとても難しいと思う。

 

 本書はエクスポージャー療法に特化した貴重な書籍である一方、やはり内容が浅く広くである感は否めない。特に前半部は良かっただけに、後半部はもう少しどうにかならなかっただろうか。ただし、既にエクスポージャー療法を行っている人であれば実践に役立つヒントは満載なので、一読を勧める。今後、各領域におけるエクスポージャー療法の詳細について触れられた書籍が出版されることを祈るばかりである(洋書では有名な書籍があるのだが・・・)。

 

おすすめ度:エクスポージャー療法を行っている者には90点、初学者には80点

対象者:臨床心理士公認心理師

 

セラピストのためのエクスポージャー療法ガイドブック:その実践とCBT、DBT、ACTへの統合

セラピストのためのエクスポージャー療法ガイドブック:その実践とCBT、DBT、ACTへの統合

 

 著者:

ティモシー・A. サイズモア (著), Timothy A. Sisemore (原著), 坂井 誠 (翻訳), 首藤 祐介 (翻訳), 山本 竜也 (翻訳)

〔目次〕
序章 エクスポージャー療法――時代に合ったツール

第I部 エクスポージャーと反応妨害の諸相
第1章 エクスポージャー療法――見過ごされてきた宝物
第2章 エクスポージャー療法と反応妨害
第3章 エクスポージャー療法のパートナー――反応妨害
第4章 エクスポージャー療法の実施
第5章 認知行動療法エクスポージャー療法
第6章 弁証法的行動療法とエクスポージャー療法
第7章 アクセプタンス&コミットメント・セラピーとエクスポージャー療法
第8章 エクスポージャー療法の他の3つの応用

第II部 エクスポージャーと反応妨害への具体的な提案
第9章 文脈の中でのエクスポージャー・メニューの利用
第10章 単一恐怖症とエクスポージャー療法
第11章 社交不安症とエクスポージャー療法
第12章 パニック症、広場恐怖症エクスポージャー療法
第13章 強迫症、全般不安症、心気症とエクスポージャー療法
第14章 感情エクスポージャーへの示唆