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臨床児童心理学

良い本だが文献リストとして使うのが一番かも

臨床児童心理学:実証に基づく子ども支援のあり方

  児童を対象とした臨床実践系の専門家が著者に並ぶ一冊。子どもを対象とした臨床実践についての一冊・・・ではなく、あくまで「エビデンスの提供」を目的とした一冊である。

 

 序章では臨床児童心理学の歴史・理念・領域の紹介と、学問を実践する者に求められる知識について紹介されている。

 1章では本書の「クイックガイド」として臨床児童心理学がどのような枠組みから成り立つ学問であるかが事例とともに述べられている。特に遺伝・環境要因としての家族の存在やケースフォーミュレーションの重要性、介入法としての認知行動療法的アプローチの重要性や予防的観点などが多くの先行研究とともに紹介されている。

 2章では臨床児童心理学のアセスメント法として「実証に基づくアセスメント」の基礎を紹介している。検査・面接・観察法を用いたアセスメントツールの紹介とDSMの基礎、最後にケースフォーミュレーションの方法について述べられている。ケースフォーミュレーションの最後に紹介されている「臨床病理マップ」の紹介は実践上有用なものであると思うので、ぜひ一読いただきたい。

 3章では研究法として介入研究の紹介がなされており、事例研究と観察研究の基礎が紹介されている。この辺りは他書も多く、臨床児童心理学に特化した内容でもないため、そちらを参照する方が良いかもしれない。事例研究では準実験デザイン、ITT解析が紹介されている。ここで取り上げられている一事例の研究デザインや準実験に関して詳細に知りたい読者は

一事例の実験デザイン―ケーススタディの基本と応用

一事例の実験デザイン―ケーススタディの基本と応用

 
シングル・ケース研究法―新しい実験計画法とその応用 (Keiso psychology)

シングル・ケース研究法―新しい実験計画法とその応用 (Keiso psychology)

 

を読むことを勧める。観察研究としては横断的研究と症例対照研究、コホート研究が紹介されている。この辺りの概説書としては心理学署ではないが

臨床研究の教科書: 研究デザインとデータ処理のポイント

臨床研究の教科書: 研究デザインとデータ処理のポイント

 

がまとまってて良い。最後にサンプルサイズについて触れられているが、内容は1ページに満たない。詳細に知りたい読者は

 

心理学のためのサンプルサイズ設計入門 (KS専門書)

心理学のためのサンプルサイズ設計入門 (KS専門書)

 
サンプルサイズの設計 (臨床家のための臨床研究デザイン塾テキスト)

サンプルサイズの設計 (臨床家のための臨床研究デザイン塾テキスト)

 

などを参照のこと。

 4章では臨床児童心理学の介入法として治療・予防・コンサルテーションの3つの観点から紹介されている。治療の項ではエビデンスの基礎的な解説が、予防の項ではリスク要因と保護要因のトピックと予防的介入についての解説が、コンサルテーションの項では学校・病院現場において心理士がどのようなコンサルテーションが求められているかかが解説されている。ただ内容としては全体的にアッサリとしたものなので、他書も参照する必要がある。たとえば学校現場でのコンサルテーションは

学校支援に活かす行動コンサルテーション実践ハンドブックー特別支援教育を踏まえた生徒指導・教育相談への展開

学校支援に活かす行動コンサルテーション実践ハンドブックー特別支援教育を踏まえた生徒指導・教育相談への展開

 

などを参照したい。

 5章からは各障害のトピックに移っていく(5章:ASD、6章:ADHD、7章:反抗挑発症・素行症、8章:不安症、9章:うつ病、10章:身体疾患)。どの章においても枠組みは同じで、初めに状態像の基礎的な解説がなされた後、そのアセスメントと介入アプローチが多くの先行研究とともに解説されている。

 最後の終章ではこれまでの章のまとめと、これからの展開として日本でのエビデンスの確立や教室現場での介入といったトピックが紹介されている。

 

 全体を通して内容は一貫して「今あるエビデンスの提供」である。本書を読んで実践の力が向上するようなものではない。そこは注意してもらいたい。

おすすめ度:75点

対象者:臨床心理士

臨床児童心理学:実証に基づく子ども支援のあり方

臨床児童心理学:実証に基づく子ども支援のあり方

 

 

筆者:石川信一  佐藤正二 

目次:

はしがき
序 章 臨床児童心理学とは(石川信一)
第I部 臨床児童心理学の基礎
第1章 臨床児童心理学における子どもの理解(石川信一)
第2章 臨床児童心理学のアセスメント法
1 実証に基づくアセスメント(大澤香織)
2 診断分類(DSM-5)(高橋 史)
3 ケースフォーミュレーション(岡島 義)
第3章 臨床児童心理学の研究法
1 介入(実践)研究(笹川智子)
2 観察(基礎)研究(金井嘉宏)
第4章 臨床児童心理学の介入法
1 治 療(佐藤 寛)
2 予 防(高橋高人)
3 コンサルテーション(小関俊祐/佐々木美保/真志田直希)
第II部 臨床児童心理学の展開
第5章 子どもの自閉スペクトラム症(大久保賢一)
第6章 子どものADHD(佐藤美幸)
第7章 子どものODD/CD(高橋 史)
第8章 子どもの不安症(笹川智子)
第9章 子どものうつ病(佐藤 寛)
第10章 子どもの身体疾患(尾形明子)
終 章 臨床児童心理学のこれから(佐藤正二)
あとがき/索引/執筆者紹介