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エッセンシャルズ WISC-IVによる心理アセスメント

WISCやる人は100回読むように

エッセンシャルズ WISC-IVによる心理アセスメント

  WISC-Ⅳに関する国際的にも評判の高い一冊。日本ではWISC-Ⅳ(もとい知能検査・知能理論)の書籍は少ないため、かなり貴重な一冊である。初学者には難解な章もあるが、WISCを取る人であれば100回とは言わないが必ず理解できるまで何度も読み通すことを勧める。それくらい貴重な一冊である。ただ難点としては、本書の後半で日本語版では使用不可能な検査(インテグレ―テッド・WIATなど)の解説が多くなされていることであろう。読み飛ばすか(監訳者の意図通り)読み進めるかは読者に任せるが、8章は頑張って読んでほしい。

 1章では知能検査の歴史と現在に至るまでの知能検査の解釈に関する議論、WISC-Ⅳの紹介として検査の内容や基となる基礎理論、さらに心理測定学的特性が書かれている。歴史で重要な点は知能検査の「4つの波」であろう。1つ目はビネー検査に代表される分類的用途、2つ目は初期ウェクスラー検査に代表される動作性・言語性という臨床的観点からの分類、3つ目は因子分析手法の発展による心理測定論的分類、そして4つ目は知能理論を用いた検査結果の解釈である。特に4つ目の波については心理士界隈で理解している者が少なすぎる。知能検査のテスターとして心理士が多く使われている現状において、これは大問題である。「知能理論とかよく知らない、群指数見て解釈すれば良いんでしょ」と思っている人は本書を読んで至急考えを改めてほしい。

 解釈の議論においては、個人内分析(個人内で強い能力・弱い能力を評価する方法)が取り上げられ、適切な解釈法が評価されている。筆者らは個人内分析を「制限つきで」有用としているが、後の章でも出るようにかなり慎重な解釈を求めている。すなわち単純に「有意に差があったからこの能力は強い、この能力は弱い」と解釈するのはやめるべきであるということだ。検査の紹介としてはⅢからの変更点と概略、各下位検査の内容が述べられている。それと同時に、心理測定論的特性が幅広く紹介されている(このあたりはWISC-Ⅳの理論マニュアルも参照のこと)。特に重要な点は構造的妥当性の記載である。従来のウェクスラー的因子構造だけでなく、CHC理論の観点から各検査がどの能力を評価しているか、対応表が載っている。ここで紹介されているものは原版であるが、日本版の結果については理論マニュアル・補助マニュアルやテクニカルレポート

http://www.nichibun.co.jp/kobetsu/technicalreport/wisc4_tech_8.pdf

※PDF注意

を参照のこと。また知能理論の概説書としては

 

madoro-m.hatenablog.com

 を参照のこと。

 2章ではWISCの実施法について述べられている。適切な環境やラポールの形成法、回答の記録法、各検査の実施法などが紹介されている。この章で最も重要な部分は、各検査の説明の部分に述べられている「観察のポイント」である。詳細は書かないが、体系的に検査時の行動観察に必要なポイントをまとめた書籍は無いのではないだろうか。この章だけでも買ったお金の元が取れると言っても過言ではないだろう。全検査にポイントと、その観察から得られる考察が記載されている。

 3章はWISCⅣの採点法であり、WISCのマニュアルに記載されているものと同様であるため、読み飛ばして構わないだろう。

  4章が本書の中核である解釈法である。特に各指標をどういう順番で解釈するか、解釈するべき時はどのような時なのかといった点が詳細に書かれているため、検査を行っている者は絶対に理解しておくべき部分である。本書が無くても自動で行えるようになりたい。また選択解釈としてCHC理論に基づいた解釈の方法も記されている。5章ではWISC-Ⅳの利点と欠点として、様々な点が述べられている。

 6章ではASDADHD、ギフテッドなどの状態像を示す人たちがどのようなプロフィールを示すかが紹介されている。この辺りを詳しく知りたい者は

 

madoro-m.hatenablog.com

 

 

madoro-m.hatenablog.com

 らの過去記事も参考にしてほしい。検査プロフィールだけで鑑別はいまだ難しいが、各障害で抱えやすい困難を理解するのには役立つだろう。7章ではより突っ込んだ議論としてギフテッドの判定・LDの評価・バイリンガル者に対する検査の実施と解釈について多くのページが割かれて解説がされている。

 8章ではWISC-Ⅳインテグレーテッドの解説がなされている。日本ではインテグレーテッドは存在しないが、この章の内容は大変参考になるものばかりなので一読を勧める。特に各指標・検査がどのような能力で構成されているかが詳細に解説されている部分はとても参考になる。

 9章ではケースレポートとして、ここまで解説されてきた内容を基に、どのように所見を書くかが示されている。詳しい所見の書き方については

 

madoro-m.hatenablog.com

 を参照してほしい。またアペンディックスにはCHC理論の詳細な解説やWISCの解釈シートなどが載せられている。

 

 WISCを用いるにあたり必須な内容は全て載せられている。やっぱり、100回読もうな。

 

おすすめ度:100点(WISC-Ⅳ使用者)

対象者:大学院生~臨床心理士

 

エッセンシャルズ WISC-IVによる心理アセスメント

エッセンシャルズ WISC-IVによる心理アセスメント

  • 作者: ドーン・P・フラナガン,アラン・S・カウフマン,上野一彦,名越斉子,海津亜希子,染木史緒,バーンズ亀山静子
  • 出版社/メーカー: 日本文化科学社
  • 発売日: 2014/03/25
  • メディア: 単行本
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筆者:

ドーン・P・フラナガン, アラン・S・カウフマン

目次:

第1章 WISC-IVの紹介と展望
第2章 WISC-IVの実施法
第3章 WISC-IVの採点法
第4章 WISC-IVの解釈
第5章 WISC-IVの優れた特徴と限界
第6章 WISC-IVによる臨床例
第7章 臨床的応用
第8章 WISC-IVインテグレーテッド
第9章 実例ケース・レポート