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はじめてまなぶ行動療法

個人的2017年No.1名著。

はじめてまなぶ行動療法

  行動分析学(スキナー以後含)から連合学習理論まで幅広く、その応用法が具体的に詳細に紹介されている一冊。一般的な行動療法系の本では「やや古い行動分析学」に基づいた従来の手法と「レスポンデント条件づけ」、付け足すかのような「認知的技法」という構成であろう。しかし本書では連合学習理論やルール支配行動、機能分析心理療法といった新しいテーマをどのように応用していくかを具体例や応用法を示しながら述べられている。ここまで最新の知見を具体例も踏まえながら紹介しているのは洋書でも類を見ないもので、かなり貴重な一冊である。

 

 1章では行動療法の全体像を把握するために従来の認知行動療法が持つ要素主義と特に行動分析学・ACTが重視する文脈主義を比較し、文脈主義が持つ利点を紹介している。臨床を主とする者はとっつきにくいかもしれないが、理解しておいて損は無い。

 2章ではレスポンデント条件づけの基礎が紹介されている。しかし「対呈示されたからCRが学習される」という説明ではなく「CSがUSを予測する」という観点をしっかり説明している。学習心理学内では超常識(超が大事)であるが臨床心理学領域においてはほとんど知られていない。そこから強化・般化・弁別・消去など基本的なトピックの説明がなされている。3章では系統的脱感作法とエクスポージャーの説明がなされている。1節・2節はCBT本お馴染みのエクスポージャーの説明であるが、3節からエクスポージャーの原理と阻害要因について紹介されている。内容は是非読んで学んでほしいのでここには書かない。和書でここまで紹介されている本は現状無いので、エクスポージャー系の技法を使用する者は必ず読むように。

 4章からはオペラント条件づけである。4章ではその基本として三項随伴性や行動クラス、強化・弱化といった行動分析学の基礎の基礎が紹介されている。5章では分化強化とシェイピングに焦点を当て、双方を行う目的や基本的な考え方、そして具体的な手順が紹介されている。最後に言語行動の観点から行動分析学が臨床面接にどのように応用可能かが触れられている。しかし本当に触れているだけなので、詳しく知りたい方は

機能分析心理療法―徹底的行動主義の果て、精神分析と行動療法の架け橋

機能分析心理療法―徹底的行動主義の果て、精神分析と行動療法の架け橋

  • 作者: R.J.コーレンバーグ,M.サイ,Robert J. Kolenberg,Mavis Tsai,大河内浩人
  • 出版社/メーカー: 金剛出版
  • 発売日: 2007/07/01
  • メディア: 単行本
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を読むことを勧める。いや、必ず読むべきである。とは言うもののこの分野の類書が少ないため、本書がかなり貴重であるのは間違いない。最後のコラムにある機能分析心理療法の中核である 「恣意的な強化」と「自然な強化」の違いは、是非自身の臨床面接に置き換えて考えてほしい。また、本書は行動分析学そのものの紹介はかなりアッサリ目である。より詳細に学びたい者は

madoro-m.hatenablog.com

 を読むことを勧める。

 6章では先行事象がセラピーに与える影響として刺激性制御や刺激般化、弁別や動因操作(確立操作)の紹介がなされている。最後の「セラピストの佇まいや振る舞いこそがセラピーの道具なのだ!」という言葉はまさにその通り。行動分析学的な観点からセラピーを行うことは従来かなり難しいとされていたが、本書を読んでいるとすぐに出来そうな気がしてくる(当然だが、幻想である)。

 7章では機能分析とスキルトレーニングが紹介されている。内容そのものは他の教科書で書かれていることと大差はないが、「スキル」を「スキル」としてではなく「行動の連鎖」として捉える視点を重視している点はとても重要である。近年は認知行動療法の台頭に伴い「ソーシャルスキル」のような実体があるかのようなトレーニングが主流となっているが、実在するのは「行動」である。最後に般化模倣について触れられているのも良い。ここまでくれば反応般化あたりも載せてくれればと思うのは我儘であろうか。

 8章では曝露反応妨害法と行動活性化の紹介がなされている。初めに従来の2要因理論から曝露反応妨害法の理屈とやり方が紹介され、次に行動活性化の基礎として抑うつ行動と活性化について触れられている。対応法則について述べられている点は初学者にはわかりにくいかもしれない。詳しく知りたい者は上で紹介した「行動の基礎」を参照のこと。

 9章からは本題(?)のいわゆる第三世代の認知行動における行動理論派の枠組みが紹介されていく。9章では言語行動とルール支配行動の基礎的説明、10章では関係フレーム理論の初歩的な解説がなされている。他書としては

臨床行動分析のABC

臨床行動分析のABC

 

 や

関係フレーム理論(RFT)をまなぶ 言語行動理論・ACT入門

関係フレーム理論(RFT)をまなぶ 言語行動理論・ACT入門

 

が有名であろうが、本書の方が平易に書かれており初心者にはわかりやすい。さらに詳しく学びたい読者は上記2冊も参照すると良いだろう。11章ではアクセプタンス&コミットメント・セラピーの解説がなされている。やや説明はアッサリ目なのでより知りたい読者は 

madoro-m.hatenablog.com

 などの他書を参照することを勧める。しかし基礎的な部分は丁寧に解説されており、初歩的な入門としては十分な内容である。

 13章ではセラピーの技術として、行動療法家が有するべきセラピストとしての機能とはどのようなものかが解説されている。とても面白いテーマであるので、欲を言えばもう少し具体的にセラピストはどのような機能を有するべきかを突っ込んで書いてほしかった。ただとても面白い内容であることは間違いない。14章では機能分析心理療法と動機づけ面接についての初歩的な解説がなされている。より詳しく学びたい読者は、機能分析心理療法は上述書、動機づけ面接は

動機づけ面接法―基礎・実践編

動機づけ面接法―基礎・実践編

 

 を読むと良いだろう。14章では機能的ケースフォーミュレーションの基本として行動療法家がどのようにクライエントの状態を見立てていくかがこれまでの内容を振り返りつつ解説されている。最後の15章ではやや基礎的な話として機能的文脈主義の解説がなされている。

 

 内容としてはかなり広範囲に渡るが、1つ1つ内容が濃く、見逃してよいページはないと言えるほどの名著である。行動療法家を目指す人(本当に存在するのか?)だけでなく、認知行動療法を行っている者も必読の書である。

 

おすすめ度:100点

対象:大学院生~臨床心理士

 

はじめてまなぶ行動療法

はじめてまなぶ行動療法

 

筆者:三田村 仰

目次:

第1部 はじめての行動療法
第1章 行動療法の全体像――その歴史から実践まで
第2部 要素的実在主義――第1世代の原理と技法
第2章 レスポンデント条件づけの基本
第3章 系統的脱感作からエクスポージャー
第3部 文脈主義――第1世代の原理と技法
第4章 オペラント条件づけの基本
第5章 分化強化とシェイピング
第6章 文脈のなかでのオペラント
第7章 機能分析とスキル・トレーニング
第8章 暴露反応妨害法と行動活性化――回避行動としてのうつと不安
第4部 文脈主義――第3世代の原理と技法
第9章 言語行動とルール支配行動
第10章 関係フレームづけ
第11章 アクセプタンス&コミットメント・セラピー
第5部 関係性を築き,介入を始める
第12章 セラピー関係と言葉の技術
第13章機能分析心理療法と動機づけ面接
第14章 機能的ケースフォーミュレーションと介入のスパイラル
第6部 臨床行動分析を支える背景
第15章 機能的文脈主義