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プロカウンセラーの共感の技術

マインドフルネスと共感の違いを考えさせられる

プロカウンセラーの共感の技術

 各種心理療法の統合を専門とする著者による、療法横断的に必須である「共感」を扱った一冊。本書の方向性は一般書であるが、臨床心理士を目指す大学院生や専門家が読んでも勉強になる。

 はじめに「共感」とはどのようなものかということを、いくつかの例を紹介しながら理解を深めていく。共感を「相手と同じことを感じる」ことではなく「人と人とが関わり合い、互いに影響しあうプロセス」と定義している。相手の考えていることと同じ考えを持つことではなく、関係性を通じてわかりあっていくプロセスであることが本書を通じて理解できる。

 次に、共感を鍛える方法についても紹介されている。一番強調されている方法は「自分が感じていること(何も感じていないこと)を感じる」ことであると紹介されている。この辺りはまさにマインドフルネスと通じるところ(というより、ほぼ同じものなのでは?)で、いろいろと考えさせられる。

 いわゆる「共感」することだけでなく、その共感をどう「表現」するかに焦点を当てているのも本書の特徴である。どのように声をかけるか・どのように反射するか・相手に気づきを与えるにはどのようにするか・声のトーンや相づちの打ち方をどうするか・共感の深さやボディランゲージのポイントなど、臨床場面で必須のスキルについても詳細に解説されている。

 

 実践的な臨床スキルを幅広く解説した一冊。これらのスキルはどの流派に限らず必要なものである。初心者からプロまでこの本を読みこんで実践に応用するだけで、必ずスキルの向上に繋がるものであろう。

  ただその一方、一点気になる記述があった。本文中「科学的な見方からすれば共感は幻想」との言葉があるが、近年の認知心理学・比較心理学の領域では共感研究は流行の兆しにある。今までは臨床領域内で「閉じこもって」共感を扱ってきたが、これからは基礎研究と融合しながら「臨床スキルとしての共感」を理解していく方向になればいいなと思う。

 

おすすめ度:93点

対象者:大学院生~臨床心理士

 

プロカウンセラーの共感の技術

プロカウンセラーの共感の技術

 

 筆者:

杉原保史

目次:

1 共感とは何か
2 孤独なのになぜ人と関わりたくないのか
3 苦境を乗り越える力
4 「考えるな、感じろ」――ブルース・リーの教え
5 すべてをありのままに感じる
6 相手の思いを受け取るように聴く
7 自分の意見は脇に置く
8 共感する気持ちを表現する
9 経験と訓練によって獲得されるもの
10 価値判断をしない――受容するということ
11 何が変化を促すのか
12 ネガティブな感情とどう取り組むか
13 「悲しいんです」「悲しいんだね」─共感と反射
14 相手に気づきをもたらす関わり方
15 すぐに分かろうとしない
16 「淋しいんですか?」と「淋しいんですね」 
17 言葉にされないものを聴き取る
18 声のトーンを聴く
19 相づちの打ち方
20 葛藤の両面に触れる
21 浅い共感、深い共感
22 言葉を使わずに表現する方法
23 自分を語ることが共感を深める
24 「おかしい」で片づけない
25 相手を信じて賭ける勇気を持つ
26 共感しすぎるということ
27 関わりと観察のバランス
28 ポジティブな感情への共感
29 リラックスして話を聴く─―ユーモア、驚きを感じるゆとり
30 共感的な愚痴の聴き方
31 自分の中にある認めたくない部分
32 拒否する人とどう関わるか
33 自然への共感は生きる力を生む
34 対立する相手への共感
35 悪意の背後にある傷つきへのまなざし
36 家族への共感はなぜ難しいのか
37 共感が失敗する瞬間─―愛情と虐待の表と裏
38 調教名人は罰を使わない─―相手を信頼すること
39 まず模倣から始めよう
40 どうしても共感できないとき
41 ハイテク医療に求められる共感的関わり
42 死を想え、そして共感を生きよう