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よくわかる認知発達とその支援[第2版]

久しぶりに良い本にあたった。

よくわかる認知発達とその支援[第2版] (やわらかアカデミズム・〈わかる〉シリーズ)

  ミネルヴァ書房の「よくわかる」シリーズの認知発達と支援編。発達心理学における認知面に焦点を当てて100のテーマを解説している。「よくわかる」シリーズとしては珍しく(?)、1テーマごとの内容はかなり詳細に踏み込んでいる。従来の発達心理学の教科書よりも、子どもの認知発達に関して深く述べられており臨床場面で子どもの発達を扱うものは一読しておくと良い。

 1章では認知発達の基礎としてピアジェヴィゴツキーの理論、知能や認知心理学的な内容について基本的な事柄が紹介されている。従来の教科書にありがちな「有名な理論の解説」だけでなく、それらに対する批判的な研究についても文献付きで紹介されている。

 2章では認知発達の時期として出生前から老年期までにわたる認知の発達について述べられているが、その中心はやはり出生・乳児期~児童期までである。特に愛着や間主観性、共同注意・心の理論や推論能力の発達について詳細に解説されている。愛着などのメインテーマだけでなく、我慢や秘密、直観像といった従来の教科書ではサブテーマ的に扱われてくるような内容もしっかりと紹介されている。

 3章では認知発達の障害とその支援について、視覚・聴覚障害や各発達障害への支援について述べられているが、この内容であれば他書の方が良いだろう。

 

 本書は、認知発達の概説書としてはかなりレベルが高く、発達面の問題を扱う臨床心理士にとってかなり勉強になる一冊である。ただ、ある程度発達心理学の知識があった方が読みやすいと思う。各トピックについて重要な文献もいくつか紹介されており、興味のある者はここから追っていくと良いだろう。

 

おすすめ度:88点

対象者:大学院受験・大学院生・臨床心理士

著者:子安増生 (編集)

目次:

I 認知発達の基礎
1 発 達:受胎から死に至るまで
2 加 齢:年齢を重ねることによる変化
3 発達段階:連続か非連続か
4 発生的認識論:ピアジェの認知発達観
5 感覚─運動期:「いま,ここ」の赤ちゃんの世界
6 前操作期:直観的に思考する
7 具体的操作期:現実世界について論理的に考える
8 形式的操作期:完成された思考形態へ
9 発達の最近接領域:「明日」の発達をみるために
10 発達課題:人生の節目に課せられたもの
11 知覚の発達:見る,聞く,におう,味わう,触れる
12 知能の発達:情報処理能力の個人差
13 結晶性知能と流動性知能:能力の生涯発達の2つの軸
14 認知の発達:環境を知り,環境に働きかける
15 トップダウン処理:幽霊の正体見たり
16 メタ認知能力:自分が何を知っているかを知る
17 認知発達の個人差:標準からのズレと1人ひとりの違い
18 認知スタイル:人によって異なる情報処理
19 学 習:経験によってなにが変わるか
20 コンピテンス:できる能力とできるという感覚
21 宣言的知識と手続き的知識:モノを知ること,コトを知ること
22 記憶の発達:一度にどれだけ覚えられるか
23 動機づけの発達:人が行動する理由
24 情動の発達:喜怒哀楽の働き
25 社会性の発達:ひとりでは生きられない
26 自己意識の発達:私について考える私
27 熟 達:より速く,より巧みに
28 生態学的アプローチ:日常生活の人間行動を考える
29 横断的研究/縦断的研究:発達を調べる2つの切り口
30 コーホート:同時代を生きてきた人々

II 認知発達の時期
31 出生前期:生まれる前の子どもの心
32 プロライフ/プロチョイス:宿された命をめぐる対立
33 出 産:赤ちゃんは生まれてすぐに立てない
34 新生児期:自ら働きかける赤ちゃん
35 乳児期:人生の旅立ち
36 愛 着:人と人の絆
37 間主観性:他者とのつながり
38 イナイイナイバー:大人とのやりとり遊び
39 リーチング:対象に手を伸ばす
40 共同注意:同じモノをみる
41 喃 語:おしゃべり事始め
42 馴化/脱馴化:見慣れないものを区別する
43 幼児期:コミュニケーションの活発化,自我の芽生え
44 母語の発達:ことばを話せるまで
45 外言/内言:言語の2つの働き
46 アニミズム:生物と無生物の区別
47 転導推理:あれはあれ,これはこれ
48 描画の発達:子どもはどのように描くか
49 自己中心性:社会化されない言葉と思考
50 視線/視点:目は心の窓
51 心の理論:他者の心を理解する
52 うそとあざむき:子どもはいつ頃からうそをつくか
53 心的動詞:心の状態を表現する
54 満足の遅延:今はがまんする
55 英才教育:特別な能力を伸ばす
56 ヘッドスタート計画:貧困の連鎖を断つ
57 児童期:思考の発達と友達関係の変化
58 直観像:見たままの記憶
59 想像力:新しいイメージを生み出す
60 素朴理論:日常経験から構成される知識
61 概念発達:物事のとらえ方のちがい
62 因果的推論:原因と結果の関係を見出す
63 方 略:問題解決のプランとスキル
64 プラニング:目標に向かって
65 リテラシー:読み書きする能力
66 ニュメラシー:基礎的な計算能力
67 9歳の壁:小学校中学年の発達と教育
68 コンピュータ教育:新しい表現のツール
69 秘 密:私とあなたを分けるもの
70 道徳性:善悪を判断する
71 リーダーシップ:集団を方向づける役割
72 青年期:子どもでもなく大人でもない
73 アイデンティティ:自分は自分である
74 モラトリアム:大人になるための猶予期間
75 イニシエーション:おとなになる儀式
76 時間的展望:将来に対する見通し
77 成人期:生産的な活動と次世代の育成
78 老年期:主観的な老いと客観的な老い
79 不 安:なんとなくこわい
80 死:人生の永遠の問い

III 認知発達の障害とその支援
81 障 害:変化する障害像
82 診 断:発達障害の発見
83 ICD-10/DSM-5:精神障害の診断基準
84 視覚障害:視力と視野の制約
85 色覚異常:十人十色,見えない色
86 聴覚障害:音の聞こえとコミュニケーション
87 言語障害:コミュニケーションの支障
88 知的障害:環境に働きかけて知ることの制約
89 高次脳機能障害:認知・言語・動作の異常
90 記憶障害とアルツハイマー認知症:脳に関連して
91 自閉スペクトラム症:自閉症とその周辺
92 TEACCHプログラム:自閉症の包括的支援
93 サヴァン症候群:驚くべき特異才能
94 注意欠如・多動症:わかっちゃいるけど落ち着けない
95 学習障害:認知能力の偏りによる学習上の困難
96 読み書きの障害:読み書きのプロセスと障害への対応
97 脳性マヒ:生後4週以前に発生する運動障害
98 肢体不自由:運動と姿勢の障害
99 病 弱:身体が弱く病気がち
100 介護:人間の尊厳を守る

さくいん