WAIS・WISCのプロフィール分析の話
知能検査に関する論文を紹介します。シリーズ化予定。
知能検査を取る、あるいは結果を見る機会がある心理士の方は多いと思います。しかし、結果の解釈に自信を持っている人はどのくらいいるでしょうか。今シリーズは知能検査に関する論文を見ながら、その結果を理解し解釈に役立てていくことを目的としています。
今回見ていく論文は
Similarities and Differences in Wechsler Intelligence Scale for Children—Third Edition (WISC-III) Profiles: Support for Subtest Analysis in Clinical Referrals
http://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/13854040490888530
です。ここで用いられている検査はWISC-Ⅲですが、解釈はWISC-Ⅳにも応用可能でしょう。本研究は貴重なデータが揃っている論文で、
- 作者: ドーン・P・フラナガン,アラン・S・カウフマン,上野一彦,名越斉子,海津亜希子,染木史緒,バーンズ亀山静子
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の6章でも紹介されています。
ここでいうプロフィール分析とは「FSIQ以外の指標や下位検査ごとの結果を分析して解釈する方法」になります。また、論文中で出てくる群指数名について、本記事ではWISC-Ⅳの名称で統一しました。
序論
プロフィール分析の是非には未だ大きな議論がある
・プロフィール分析反対派
1. FSIQのみの使用を推奨し、因子や下位検査ごとの解釈には反対
2. FSIQと群指数の使用は良いが、下位検査のみによる解釈は反対
その一方で、下位検査ごとの解釈は現場上有用であるという指摘もある
→FSIQや群指数に分けることで失われる情報もある
下位検査得点と群指数の値を比較する方法=イプサティブ分析
同時に全ての下位検査の得点を比較し、観察されたパターンがどの程度の頻度で生じうるかを評価する方法=configural frequency analysis
WISC-RとWISC-Ⅲの下位尺度間や群指数間において診断群間で有意な差が見られてきた
・ADHD児とLD児、自閉児はワーキングメモリーと処理速度は言語理解と知覚推理より低い
・脳損傷を伴った子どもは言語性より動作性のほうが低い
・自閉児は「理解」が他の言語理解の検査より得点が低く、積木模様は動作性の中で高い
本研究の目的
・以前の研究の追試
・様々な臨床群の子どもたちのプロフィールを比較
方法
対象者 809人(6-16歳、平均9歳±3)
→臨床診断がついたIQが80以上
ADHD・・・630人
自閉・・・93人
脳損傷・・・48人
不安症・抑うつ・反抗挑戦性障害・・・38人
結果
(本論文(Mayes et al., 2004)より引用)
・ADHD、LDを有した気分と行動障害、自閉ではワーキングメモリーと処理速度が低い
・ADHD、LD、自閉では動作性の中で符号が最も低く、次いで記号探しが低い
・自閉では言語理解の中で理解が最も低く、知覚推理の中で積木模様が最も高い
WISCの結果がこれらのプロフィールに近いものであれば、障害の可能性を考えても良いかもしれません。勿論、この結果だけで診断を確定できるものではないことは心に留めておいてください。ちなみにこの結果の傾向は、WISC-Ⅳでも大きく変わっていません(理論・解釈マニュアル5章を参考のこと)。巷では「絵画配列はASDでは低くなる」という言説が流れていたりしますが、どこからきたものなのでしょうかね。
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