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新 生理心理学〈1巻〉生理心理学の基礎

名前の通り生理心理学の基礎はこの一冊で十分。

新 生理心理学〈1巻〉生理心理学の基礎

 

  日本における生理心理学の代表的教科書。他書も多く存在し、出版も約20年前であるにも関わらず、未だ絶大な人気を誇る本書。評判に違わず内容は生理心理学で使われる指標のほとんどを過不足なく紹介・解説しており、この1冊を読むだけで生理心理学の大方基礎的な部分は理解できたと言っても良いだろう。

 1章では生理心理学と精神生理学と題してこの2つはどのように異なる学問であるのかを歴史的に概説しながら、生理心理学が目指す目標や方法論について紹介している。2章ではその他の関連分野として認知や情動反応に関する研究領域や、認知神経科学・精神医学といった諸分野が生理心理学とどのような関連を持つかを紹介しながら、生理心理学が有する立ち位置について解説されている。3章では生理心理学の基礎として、ヒトにおける生体反応をざっと紹介した後、中枢神経系、自律反応および骨格筋・運動系や消化器系の反応がどのように心理学的現象と関連しているか、そしてどのように測定可能かを概説している。

 4章と5章は脳神経系と行動の関連について、主に認知神経科学と解剖学の観点から現在までわかっている知見についてや研究法の解説が行われている。この章で紹介されている内容は

madoro-m.hatenablog.com

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で書かれている内容とほぼ同じである。上記の2冊の方がより詳細な内容が書かれているので、神経科学関連の知識は先にそれらを読んでおくと、復習としても良いかもしれない。ただ5章の研究法に関しては上記2冊よりも詳細に書かれている部分もあるため、実際に研究を行う者はこちらを読んでおくことを勧める。6章では脳波について、測定法、装置、記録法や分析法といった実際的な説明から、現在までの知見(主に睡眠時脳波)の概説が行われている。7章では事象関連電位、8章では脳の画像解析について6章同様に実際的な部分と知見の概説を行っている。

 以降、各章において多様な生体反応について、6章同様に測定法・装置・記録法および分析法の説明と、従来の知見の概説の2つの軸から解説を行っている。9章では心拍、10章では血圧や血液容積波といった血液関連の指標、11章は呼吸、12章は皮膚電気活動、13章は体温、14章は骨格筋の反応や筋電図、15章では眼球運動、16章では瞬目反応、17章では免疫系や内分泌系が紹介されている。

 18章からはより現場で役立つ内容が紹介されている。18章ではデータの取り扱い方について、19章では解析法や実験計画法の基礎について紹介されている。

 生理心理学を専門とする者だけでなく、生理心理学的手法を使って実験を行う者は必ず読んでおくといい。生理心理学が専門でない者は、専門分野の勉強にかまけてしまい、どうしても不勉強になりがちな部分である。しかし自らの研究で使用している以上「よくわからない」は通用しない。特に学部生や大学院生は、基礎的な部分であっても理解できていない者の方が多いだろう。プロの研究者ではそのような人はいないと信じているが、いないとも言い切れないのが実情。「先行研究で使われているから」その指標を使うのではなく「必要だから使う」ようになる人が本書を読んで一人でも増えることを祈る。また、これから初めて生理反応指標を使用する者にとっては理論と実務双方が丁寧に解説されているため、是非読んでほしい。そして、生理反応の奥深さに触れながら、これからの研究計画に思いを馳せてみてはいかがだろうか。

 

おすすめ度:80点(研究で生理反応を使用している者は100点)

対象者:学部生・大学院生・研究者

新 生理心理学〈1巻〉生理心理学の基礎

新 生理心理学〈1巻〉生理心理学の基礎

 

 

 

著者:

宮田 洋 (監修), 藤沢 清 (編集), 山崎 勝男 (編集), 柿木 昇治 (編集)

目次:

1部 生理心理学とは
2部 脳と行動
3部 中枢神経系の活動
4部 自律神経活動・呼吸活動
5部 視覚―運動系活動・内分泌活動
6部 生体反応測定の留意点