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エビデンス 臨床心理学 認知行動理論の最前線

著者:

丹野 義彦 (著)

目次:

第1章 認知臨床心理学のフロンティア
第1部 抑うつの理論
第2章 ベックの認知療法と認知病理学
第3章 抑うつスキーマ論争とティーズデイルの抑うつ理論
第4章 認知アプローチの展開─アナログ研究とメタ分析
第5章 ベック理論への批判と抑うつ研究の最前線
第2部 不安障害の理論
第6章 パニック障害と空間恐怖の認知モデル
第7章 強迫性障害の認知モデル
第8章 対人恐怖の認知モデル
第3部 精神分裂病の理論
第9章 妄想の認知モデル
第10章 幻覚の認知モデル
第4部 まとめと今後の課題
第11章 エビデンス臨床心理学の構築に向けて

 

 認知行動療法の基礎理論について各障害ごとに紹介されている概説書。今でこそこのようなコンセプトの書籍は多く存在するが、この書籍が出た当時はかなり少なく、貴重であった。内容はさすがに古くなっているが、基本を押さえる意味でも認知行動療法を実線で行っている者、また研究を行っている者は一読しておくとよいだろう。

 1章では近年の臨床心理学の流れについて、認知行動療法の観点から解説している。

 2章からは抑うつの理論として、初めにベックのうつ病理論の解説がなされている。ベックの理論が爆発的に進んだ背景として、心理アセスメント・基礎理論・介入の3つの軸が同時並行的に発展していったことを挙げ、3つの軸の歴史や研究動向について紹介している。アセスメントとしてはBDIの開発から信頼性や妥当性の検討といったテーマや、近年爆発的に増えた質問紙研究を解説している、基礎理論としてベックのABC図式とストレス素因モデル、抑うつスキーマ仮説といったモデルの基盤について解説している。介入としては認知療法における多彩な技法や効果研究について紹介している。3章ではティーズデイルの抑うつ理論について紹介し、ベックの理論とどちらが適切なモデルであるかを、様々な研究を紹介しながら議論している。また、感情の2要因理論やバウワーのモデルなど、感情心理学的観点から抑うつの説明を紹介している。ティーズデイルの抑うつ理論はこの後のマインドフルネス認知療法に繋がっている。この後の理論の変遷については

madoro-m.hatenablog.com

のマインドフルネス認知療法の章を読むことを勧める。

 4章では近年の動向として、質問紙研究の妥当性に関する解説やアナログ研究の意義と限界、メタ分析といった内容を紹介し、入門者向けに解説を行っている。5章ではベック理論への批判として多様な論争を紹介し、ベックの理論では説明できない諸現象について紹介している。

 6章からは不安障害(不安症)として、パニック障害(6章)、強迫性障害(7章)、対人恐怖(8章)について、基礎理論や基礎研究、アセスメント法と介入について紹介している。パニック障害においてはパニック発作の生理学的モデルとパニック障害の認知モデル、そして認知行動療法ではどのような内容の介入を行うのかを説明している。強迫性障害では従来の行動療法的なモデルを説明した後、アナログ研究の結果からいくつかの認知理論を紹介している。

 9章からは統合失調症として妄想(9章)と幻覚(10章)について、前章同様に解説を行っている。

 11章からは統合的な解説として近年の研究動向を紹介し、認知行動療法に関する最近の流れを解説している。

 本書は認知行動療法研究の概説書として長らく評判が高い。しかし今の時代ではかなり情報が古くなってしまっていることも確かである。このことは、認知行動療法の基礎研究が進んだ証拠でもある。そのため、内容としては実用よりも歴史的意義が強いものが多くなってしまったが、近年の臨床心理学の考え方を理解するためにはとても重要な一冊である。単純な研究の説明やモデルの紹介だけでなく、アセスメント・基礎理論・介入の軸が現在の臨床心理学の基礎にあることがよくわかるであろう。

 

おすすめ度:75点

対象者:学部生・大学院生・臨床心理士・研究者

 

エビデンス臨床心理学―認知行動理論の最前線

エビデンス臨床心理学―認知行動理論の最前線