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よくわかる発達障害―LD・ADHD・高機能自閉症・アスペルガー症候群

著者:

小野 次朗 (編集), 藤田 継道 (編集), 上野 一彦 (編集)

 

目次:

1 発達障害の理解の手助けとなる基本的な事項
2 特別支援教育の理念とシステム
3 LD(学習障害)
4 ADHD(注意欠陥多動性障害)
5 広汎性発達障害(自閉症スペクトラム)
6 アセスメントのための心理検査
7 軽度知的障害への視点および発達障害に共通する対応法・支援

 

 

 心理学の概説書として評判高い「よくわかる」シリーズの発達障害版。歴代作と同様に、発達障害に関する各トピックについて、見開き1~2ページ程度でまとめられており、内容も申し分ない。発達障害について初めて勉強する者の入門書としては最適であろう。

 1章では神経科学の説明と、視覚・聴覚情報処理の概要、そしてワーキングメモリといった、近年盛んになってきた発達障害研究を理解するための入門的説明がなされている。ここでの内容が直接的に発達障害の支援に繋がるわけではないが、発達障害神経科学・心理学的に理解するためにはとても重要な事項である。これらの内容についてより深く知りたい場合は

madoro-m.hatenablog.com

といった神経科学の概説書や、

認知心理学 (New Liberal Arts Selection)

認知心理学 (New Liberal Arts Selection)

 

といった認知心理学の書籍に当たるのが良いだろう。その他にもDSMとICDについての紹介もなされているが、出版年からも分かる通りDSM-5には対応しておらず、現在ではあまり必要ないかもしれない。

 2章では特別支援教育と法整備等の国のシステムの解説がなされている。特別支援教育とはどのような理念のもとで動いているのか、また特別支援教育コーディネーターや個別支援計画などの基本的な情報が紹介されている。また法整備として発達障害者支援法や学校教育法の改正に伴って発達障害児・者への法的扱いがどのように変わっているのかが解説されている。

 3章からは各障害論として、学習障害(3章)、ADHD(4章)、広汎性発達障害(5章:旧称のまま)について歴史や原因論、診断基準をはじめに概説し、その後多様なアセスメント法や指導・介入法を解説されている。特に5章が充実しており、介入法としてPEPやTEACCH、Lovaas法まで幅広く紹介されている。

 6章はアセスメントとして、WISC・K-ABC・DN-CASといった各知能検査や言語能力検査(ITPA)、K式などが紹介されている。これを読んだだけで理解したり実施できるようにはならないが、初学者への紹介としては適切な解説がなされているように思う。7章は知的障害に関して、他の発達障害との併存や介入法について軽く触れられている。

 先にも述べたとおり、本書は発達障害に関する入門書として質の高い良著である。しかし、DSM-5において発達障害は大きく名称が変更されたことに伴い、現在ではあまり使われない呼称が多く登場する点には注意が必要である。ただ、名前は変わってもこの本の質の高さが変わるわけではない。これらの内容について熟知した上で名称との整合性を取っていけばよいだけではないかと思う。発達障害について知りたい人・これから関りを持つ人は必ず読むことを勧める。この本に書かれている程度の内容は、最低限の知識として臨床現場で関わる際は持っておかなければならない。

 

おすすめ度:100点

対象者:学部生・大学院入試受検者・大学院生・臨床心理士試験受検者・臨床心理士

よくわかる発達障害―LD・ADHD・高機能自閉症・アスペルガー症候群 (やわらかアカデミズム・わかるシリーズ)

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