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脳のメモ帳―ワーキングメモリ

著者:苧阪 満里子

 

目次

1章 ワーキングメモリの成立 
ワーキングメモリとはなにか 
記憶のしくみ 
短期記憶からワーキングメモリへ 

2章 言語とワーキングメモリ 
言語を支えるワーキングメモリ 
ワーキングメモリの個人差とは 

3章 ワーキングメモリを測定する 
日本語のリーディングスパンテスト 
リーディングスパンテスト遂行のエラーと方略 

4章 ワーキングメモリと第二言語 
第一言語第二言語リーディングスパンテスト 
言語習得期間とワーキングメモリ 

5章 加齢と発達 
加齢とワーキングメモリ 
発達とワーキングメモリ 

6章 注意とフォーカス 
文のフォーカス 
リーディングスパンテストと文のフォーカス 
視覚的世界とフォーカス 

7章 ワーキングメモリの神経基盤 
ワーキングメモリを支える脳 
ニューロイメージによるワーキングメモリの神経基盤の探求 

8章 言語理解の神経基盤 
リーディングスパンテストの神経基盤 
ワーキングメモリの個人差とその神経基盤 
前部帯状回のはたらき 
シータ(θ)波からワーキングメモリを探る 

9章 ワーキングメモリのモデル 
ワーキングメモリの脳内モデル 
ワーキングメモリと自己意識 
資料 リーディングスパンテスト(成人用) 

 

 近年、教育界でも話題になりつつあるワーキングメモリに焦点を絞った一冊。焦点を絞った分、内容は認知心理学における記憶領域の入門的な話から、当時の最新の研究動向に至るまで詳細に記されている。出版されている多くの書籍ではワーキングメモリの向上や活かし方について紹介されることが多いが、その基となる基礎理論を勉強するには最良の一冊。

 1章では、記憶研究の歴史やワーキングメモリの概要について丁寧に述べられている。この辺りは認知心理学の概論書でカバー可能であるが、やはりワーキングメモリの説明は詳細かつわかりやすいので、知識がある人も一読を勧める。

 2章以降では、各分野でのワーキングメモリ研究の動向を紹介している。言語とワーキングメモリについて(2~4章)、ワーキングメモリと発達(5章)、ワーキングメモリと注意(6章)、ワーキングメモリと神経基盤(7、8章)、ワーキングメモリのモデル(9章)と、多種多様に渡る分野を詳細に説明している。ただし2章以降の難易度は割と高めであり、前提となる知識を持っていないと読み進めるのが大変かもしれない。2章以降は割と独立して書かれているため、1章を読んだ後は興味のある分野を読んでいくのが良いだろう。

 ワーキングメモリーの入門書としては質が高く、この領域について知りたい人は本書から入ると良いだろう。記憶研究者はもちろんのことであるが、特に1章・2章・5章・6章は教育分野や臨床分野の人も一読の価値がある。ワーキングメモリーに弱さを抱えやすい発達障害児(者)をクライエントに持っていたり、知能検査や発達検査を実施する検査者は1章だけでも読んでおいて損はない。

 

おすすめ度:80点

難易度:やや難しめ

対象者:学部生・大学院生・研究者・臨床家

 

ワーキングメモリ―脳のメモ帳

ワーキングメモリ―脳のメモ帳